|  第69回工場移転を4回!?
 味多美の社長との面談から半月ほど経ったころ、私は数人の幹部と共に味多美の工場見学へ行きました。
 手を振って出迎えてくれた大柄の男性が味多美の工場長でした。
 工場の説明を受けながら、
 まずは事務所へ通されました。
 この事務所も本社同様、無駄なスペースがなく、
 工場長も他のスタッフと同じ机と椅子で仕事をしていました。
 中国ではなかなか珍しい光景です。
 工場は“素晴らしい”の一言につきました。今まで何社ものパン工場を見ましたが、
 いまだに味多美の工場が私の中では一番です。
 最初から“見られる”ことを意識しての設計か、
 見学者通路が設置されてあり、
 白衣などに着替えなくても一通りの見学ができます。
 整理整頓がされた本当にきれいな工場でした。
 一通り見学した後、事務所で工場長と雑談をしていた時です。
 “この工場、物件探しから建物建設、
 稼動まで、たった3ケ月でやったんですよ”
 と工場長が笑みを浮かべながら話してくれました。
 俄かに信じ難い話しです。
 1万2千u以上もあるこの規模の工場を、
 物件探しから稼動まで3ケ月、有り得ません。
 “またまた冗談でしょ!”
 という私の気持ちを予測してか、
 “実はこの工場で4箇所目なんですよ。
 前の工場が突然立ち退きに遭いましてね、
 なぜって契約内容が、
 3ヶ月前であれば一方的に契約解除できるものだったんです。
 多くの社員はもう駄目だと思ったでしょうね”
 と工場長はその経緯を教えてくれました。
 さすがに懲りて、
 今のこの工場は土地から建物まで自前にしたようです。
 “人間、追い詰められると何でもできちゃうんですよね”工場長はその頃を思い出したかのような表情で呟きました。
 今では成功の代名詞である味多美も、
 幾度となく襲ってきた苦難を乗り越えて今があるのだと思うと、
 なんだか親近感が湧き妙にうれしくなってしまいました。
 “何事も経験ですよ。過去に3回の工場移転の経験があったので、
 社長も私たちも何とかなると信じていました。
 この件で、会社も社員も本当に大きく成長できました。”
 工場長の言葉は、自信に満ち溢れていました。
 味多美の社長、
 工場長からは本当に色々なことを教えていただきました。
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