第102回 生前贈与のための新相続税制−中級編
賃貸アパートの贈与、「負担付贈与」は時価評価
Aさんは賃貸用アパートを
2棟所有して経営していましたが、
高齢になり、自分が今後生活していくには
十分な財産が蓄積されたこともあって、
アパートの1棟を息子に贈与しようと考えました。
そこで、アパートの土地・建物を贈与するとともに、
アパート建築の際の銀行借入金残債についても同時に
息子に引継ぐことを予定しています。
このように、アパートの土地・建物をあげる代わりに、
銀行借入金を返済してください、
ということを条件にした財産の贈与を
「負担付贈与」といいます。
個人から負担付贈与を受けた場合には、
税務上、贈与財産の価額から負担することになる
債務額を控除した価額が
贈与税の課税価格となります。
ところで、負担付贈与が行われた場合で
贈与財産が土地や建物などである場合には、
その価額は財産評価基本通達による評価額、
すなわち路線価を基礎にした評価額を用いることはできず、
その贈与のときにおける通常の取引価額(時価)を
用いなければならないとする取扱いになっています
(相続税財産評価関係個別通達
「負担付贈与又は対価を伴う取引により取得した土地等及び
家屋等に係る評価並びに相続税法第7条及び
第9条の規定の適用について」)。
したがって、
賃貸用アパートの負担付贈与を行う場合には、
地元の不動産業者あるいは
不動産鑑定士などの専門家に
土地・建物の価格を査定してもらう必要があります。
なお、賃貸用アパートの贈与を行う場合、
通常は、賃借人から預かっている敷金や
保証金の返還義務(債務)をも
受贈者が引継ぐことになりますが、
その場合に上記の
負担付贈与通達の適用があるのではないか、
といった問題が考えられます。
しかし、預かり敷金・保証金の債務と
これに見合う現金とを
抱き合わせで贈与した場合においては、
負担付贈与通達の適用はなく、
単純贈与とされ、
贈与した不動産につき時価評価する必要はありません
(相続時精算課税に関する質疑応答事例について(情報))。
一般的には路線価等の評価額のほうが
時価評価額よりも低い状況にありますので
迂闊に負担付贈与は行うべきではない、となるのですが、
とはいえ、路線価等の評価額に比べて
時価評価額のほうが低くなるケースにあっては、
負担付贈与として取扱われたほうが
贈与税額の計算においてかえって有利となりますので、
この点を念頭において負担付贈与を
行う、行わない、の判断をなさって下さい。
いずれにしても、
賃貸用アパート・マンションの贈与については
課税上の取扱いがわかりにくい状況にありますので、
実行なさる場合には
専門家に相談なさるようお勧めします。
執筆:税理士法人山田&パートナーズ 税理士 山本武尊
監修:公認会計士 山田淳一郎
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