金持ちになった日本人の果たすべき役割がある
日本人の財産はわずか十年間でドル建て勘定でニ十倍になった
以上述べてきたことからもおわかりのように、石油ショックのあとのピンチこそが日本経済を鍛え、日本製品に国際競争力をつけさせるようになったのである。しかし、日本の優位が誰の目にも明らかになると、円高が激化したばかりでなく、貿易摩擦が日本人を苦しめるようになった。次々と押し寄せるこうしたピンチに対して、日本人はコスト・ダウンにつぐコスト・ダウンで対応してきたが、そのたびに日本商品は一段と外国に売れるようになり、世界中のどこの国の人々と比較しても、日本人を金持ちにする結果となってしまった。
日本人自身は、そうなることをほとんど予想していなかったし、今もなおそうした自覚は持っていない。というのも、ピンチから逃れることに夢中になっているうちに起った出来事であり、日本人の所得水準が他国に比べて高くなったといっても、日本の物価は世界で最も高く、日本の政府がまたそれを引き下げることにまったく不熱心ときているから、日本国内に住んでいるかぎり、日本人はそう金持ちになったという実感は持っていない。それでも日本が一人あたりGNPのトップに躍り出したのはどうしてかというと、付加価値のある工業製品を生産してアメリカに大量に輸出して、アメリカから大量にドルを受け取るようになったからである。
ドルを受け取ると、輸出業者はそのドルを売って日本円に換える。為替が管理されていたあいだ、この仕事はすべて日本銀行の所管であった。今も、外貨準備として日本銀行の勘定に計上される分は、ドルを見返りに円で支払われる。しかし、昔と違って、誰でも自由に自分の持っている円をドルに換えて海外に持ち出したり、決済に使ったりすることができるようになったから、いちいち日本銀行を経由する必要はなくなったが、日本側のドルの手持ちがふえれば、それだけ金あまりになり、それを見返りに円がふえ続けることには何の変りもない。金あまりになると、次の二つのことが起る。一つは円が強勢になり、為替相場がドル安に動くことである。もう一つは、日本国内で財産価値のあるもの、たとえば、土地や株が大暴騰をすることである。
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