ところが、実際にはどこの国でも、大量に金が流出しそうな貿易上のアンバランスが生ずると、直ちに防衛策を講じた。どこの国でも、赤字の原因になる輸入に対して関税率を引き上げたり輸入そのものを制限したりあるいは禁じたりしたのである。自由貿易は理論としては成り立つとしても、それをお題目として唱えることのできるのは経済強国だけで、経済弱小国はいつの時代も、輸入を自由化したのでは国がもたない立場におかれていた。かつて強く自由貿易を唱えてきたアメリカが、彼我の立場を逆転された途端に保護主義の方向に傾いているのをみてもわかることである。
というわけで、世界が一つの国にでもならない限り、完全な貿易の自由化にはまだまだ多くの障害がある。将来、それが実現するときがあるとしても、もっとずっと先のことであろう。おそらく当面は、二国問で貿易のバランスをとるか、でなければブロックを中心にバランスをとるということが試みられる。それができれば、国際貿易による影響からある程度自国経済を守ることは可能になる。金を裏づけにして紙幣を発行するという制度は、通貨制度の生成発展の過程で行きがかり上、そうなっただけのことであって、国に信用があり、それがルールどおりに運営されれば、金を背景にしないで通貨制度を維持していくことは可能なのである。
その証拠に金本位制離脱後、アメリカのドルが金に代って次第に世界通貨としての役割を果たすようになった。アメリカのドルがアメリカの経済を背景にした最も信用のおける通貨だったからである。もちろん、アメリカのドルといえども、金に対する交換券であることに変りはなかった。しかしそれが国際通貨として受け入れられたのは、いつでも金に交換できるという理由からではなく、アメリカの経済が繁栄し、アメリカの国際収支が黒字続きで、目減りしない安定した通貨として広く認められていたからにほかならない。
そういう国の通貨を持っておれば、金で持っているのと同じ安心感を与える。金を使って物は買えないが、世界で一番強いドルを使って決済をすることなら、外国の商人も喜んで応じてくれる。それならば余ったお金は、勝手知った自国の通貨で持っているか、自国通貨が不安で信用のできない場合は、ドルで保有しようかということになる。世界中の国々が通貨の発行準備金を、金地金で持たずに、ドルで持っているのをみても、ドルが世界通貨として揺ぎのない地位を占めていることがわかる。
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