外国におとした金をまた丹念に拾って帰る
日本人の鎖国思想が間われる航空運賃の問題
国際貿易が盛んになるにつれて、物だけでなく、人もお金も世界中を動きまわるようになった。人が動くことを旅行といい、金が動くことを金融という。その動きが活発になると、外国へ行ってサービス業を始めるチャンスがふえる。航空会社もそうだし、ホテルもそうだし、旅行社もそうである。また銀行や証券会社も世界中にネット・ワークを張るようになっている。
もともと日本人は旅行の好きな国民で、松尾芭蕉の『奥の細道』も旅行文学なら、『東海道中膝栗毛』も旅行文学である。徳川時代の初期に鎖国令を布いたのも、「もし国民の好き勝手にさせたら、日本人は皆、外国に行ってしまって徳川幕府の治める人民がいなくなってしまうおそれがあったからではないか」と私は冗談口を叩いているが、むろん、「外国人に接したら、その影響を受けやすい日本人がお上の命令をおとなしくきいているわけがない」という配慮もあったに違いない。敗戦後の一時期、日本人は海外渡航を禁じられていたが、独立を回復して海外渡航が自由化されるようになると、ドッと堰を切ったように海外に出かけるようになった。それが年たふえてついに年間一○○○万人が海外旅行に出かける時代を目睫にしている。
年間に一○○○万人の人が同じ目的で動き、同じ目的のためにお金を払うとなれば、これはかなり大きなマーケットである。利にさとい商売人たちが見逃すわけがない。旅行はAの地点からBの地点まで人を運ぶ仕事に始まるが、日本の場合、海外旅行ともなれば、ほとんどの利用客が飛行機を利用する。日本人は言語の関係もあって、日本語の通じる日本航空に乗りたがるので、日本航空はアッという間に世界一の航空会社にのしあがった。その一方で、日本航空一社に国際線を独占させることに対する批判も強いので、全日空にも、続いて日本エアシステムにも、国際線への進出を認めるようになった。
日本の航空会社は、今までずっと述べてきたサービス先進国の伝統を受けついでいるので、諸外国の航空会社に比して概してサービスがよい。それは外国人にもはっきりそれとわかるとみえて、「今、世界中のエア・ラインでどこが一番サービスがいいか、知っていますか?」とアメリカ人にきかれた。「どこですか?」とききかえしたら、「ANAですよ。ANAに乗ってロスと東京のあいだを往復したが、すっかり満足しました」とたいへんな褒めちぎりようである。「それはたぶん、ANAが国際線に進出したばかりで、打倒JALを目ざしているからですよ。値段が同じなら、サービスで差をつける以外に方法はないですからね」「いや、それにしてもANAのサービスは素晴らしい。以前はシンガポール・エアラインが一番と思っていたが、目下のところはANAが世界一だ」日本の航空会社はどこに行っても評判がよい。 |