第682回
美味しいものを作るのもマズイ物を作るのも脳です
舌の感覚を支配しているのは、脳です。
その味覚の中枢は側頭葉と前頭葉眼窩回にあります。
図1、図2の黄色の部分です。
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図1
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図2
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この側頭葉と眼窩回の領域が広く、働きが特にいい人は、
味にうるさいのです。
非常に働きのいい人は、例えば稚アユでも、
それが何処の川でとれたものか、マグロでもどこのものか、
それに染みついたかすかな味を弁別できるのです。
側頭葉と前頭葉眼窩回というのは、
感情のこまやかさにとっても非常に大切な脳なのです。
この部分が働きのいい人はやさしいのです。
思いやりのある人です。
味にやさしさが感じられるというのは、
最高に脳が働いている証拠です。
相手を選ぶ時には、
味の良くわかる人を選ぶと間違いないと思います。
それから美味しいものを作る時に
どうしても必要なものは嗅覚です。
この嗅覚の中枢というのは前頭葉の内側にあります。
図3の青で色を塗った所です。
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図3
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匂いに特に敏感な人はこの部分の大脳皮質の領域が広く、
また働きが格段にいいのです。
風邪を引いた時には、
日頃うまいものを作っている人でも味が格段に落ちます。
それから素材そのものを見ただけで、いいものかどうか見分け、
また料理を美しく見せるには
視覚の中枢も非常に働く必要があるのです。
それは図3の緑の部分、後頭葉の内側の大脳皮質にあります。
普通の人が見える以上のものが見えないと
美味しい料理はできないのです。
味覚、嗅覚、視覚ともに揃っていても、
右大脳皮質の外側にある後頭葉、
立体画など空間認識の部分が働かないと、
見た目が美味しくできないのです。
出来上がったものがお皿に盛りつけ、お客さんの前に出され、
あるいは寿司のように握ってお客さんのお皿においた時、
それが最高の芸術品と言われるものであればいいのです。
料理というのは、消える芸術品だと私は思うのです。
それがどんなに素晴らしく美味しいものでも、
消えてなくなってしまいます。
最高の芸術品と言われるものは、
脳全体をfullに働かせる必要があります。
味覚、嗅覚、視覚だけでなく、
前頭葉もその他の所も働かせる必要があるのです。
それがほとんどfullに働いている人は、
私の調べた範囲では、
現在の日本ではたった一人しかいないと思います。
最近出版された「東京情緒食堂」という雑誌に載っている
すし処宮葉の親方です。
星というのは、
星をつける人の脳もみないといけないと思います。
脳というのは、錆びていきます。
それをメンテナンスしているかどうかで決まるのです。
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