第722回
レトルトや弁当に名を貸す理由は?
第699回のコラムでは、
有名料理人である陳健一氏や神田川氏の
名前を冠した弁当を食したことについて書きました。
所詮「コンビニ弁当」じゃないか、
文句をつけてもしょうがないと言われてしまえばそれまでですが、
料理人の名前の割に
まったく満足感をもてなかった事は述べました。
しかし、世にはコンビニ弁当だけではないようです。
コンビニに置いてあるものとしては、
カレーなどのレトルトにも
あたかも有名店であるがごとく
店の名を冠したものがかなり目立ちます。
カップラーメンでも
店やラーメン職人の写真が載っているものが多い。
TVのコマーシャルでは、
「ベットラ」の落合シェフがかなり流されているようです。
元来、根は悪い人ではないと思わせる
たどたどしい台詞回しと笑顔は、
悪い印象を与えていないとおもいます。
昔記憶にあるイノさんのレトルトのコマーシャルより露出は多く、
料理雑誌でも大きく宣伝がうってありますから、
S&Bも力を入れているのでしょう。
予約が一杯で店では食べられないので、
気軽にそのシェフのリゾットやパスタソースを
誰でも簡単に家庭で楽しめる、と煽って販売数を上げる狙いです。
しかし、今時、店で食べるリゾットと、
食後感が同じレベルのレトルトであると思う
純粋な客は居るでしょうか。
もし同じだとしたら、
わざわざ行って高い支払いをする客はいなくなりますから、
店が潰れるはずです。
人気店のシェフという立場あっての冠レトルトですから、
店がなくなってしまう、もしくは閑古鳥になってしまっては
レトルトも売れなくなります。
レベルが同じようなレトルトを手頃な価格で売り出すというのは、
店のライバルが量産してしまうのと同じことで、
自殺行為のようなもの、いくらレトルトが売れて
シェフにロイヤリティが入ってきたとしても、
店の存在価値がなくなれば本末転倒です。
要は、店とレトルトの料理は、
まったく別物にしなければ意味をなさないのです。
では、なぜ彼らはこのような宣伝に出てくるのか。
私は単に、
レトルトの販売によるロイヤリティ稼ぎだけではないと考えます。
外食に興味のある方ならば、
「ラ ベットラ」系の数店舗の存在はご存知のはず。
予約システムを変更する前は、
1年先まで予約で一杯だったという伝説の店でしたが、
それでもどのくらいの方がご存知でしょうか。
三越のイタリアンフェアでの出店では常連ですが、
押しかけている客のなかには、
来場するまでは「人気店」であるということをご存じない方も
結構居られることに私は気がつきました。
石を投げたらイタリアンにあたるほど
都内に増殖してしまった現在、
以前のように予約がまったくとれない、
もしくはぜひとも行ってみたい、
といった話や噂も耳にしなくなりました。
いわゆる良く言えば「安定期」、
はっきり言えば「伸び悩み」、「頭打ち」の時期に
突入してしまっているのではないかと考えます。
本店は昼でも2回転しているようですが、
2号店は結構簡単に入店できるようですし。
それでも予約で一杯と銘打って
レトルトを売り出す理由はなんなのでしょうか。
ずばり、客層の底辺拡大が狙いではないか。
雑誌やTVの宣伝を見た人で、
この店の存在を知らなかった方も多いでしょう。
「へー、予約が取れないイタリアンがあるのか」とはじめて知って、
「そんな人気店のレトルトなら買ってみるか」、
そして二次的効果として、
「一回その店に行ってみるか」という心理になると思います。
店側としては、まさにロイヤリティと集客の効果の一石二鳥。
S&Bとしても、
「ベットラ」を知っているイタリアンを食べ慣れている人は
元からレトルトを買わないでしょうが、
店を知らない、あまり食べ慣れていないマジョリティの人には
大きな宣伝効果があるのです。
私は、今本当に人気絶頂で忙しくてたまらないシェフ、店だったら、
このような宣伝にでる余裕も必要もないだろうと考えます。
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