第624回
業界人のお勧め店 その1
そもそも業界人とはなんぞや
きっかけは偶然みつけた本でした。
いつもの通り、ネタ探しのため大手本屋を物色していたら、
「すずきB」氏という放送作家の書いた
「業界人がススめる魂のレストラン」
なる薄い本に目が留まり購入しました。
佐藤B作というお笑いタレントの方が知名度は上でしょうが、
このコラムの読者の方から何回か名前を聞いていたので、
放送作家が職業の人だとわかりました。
「魂のワンスプーン」とかいう番組にかかわっている人らしいです。
以前から、週刊誌や雑誌で、
「業界人に人気のある店」とかの特集をよく見るにつけ、
その企画内容に疑問をもっていた友里は、
業界人と飲食店の関係などをテーマにした
シリーズを思いつきました。
そこでまず疑問に思ったのが
そもそも「業界人」とはどういう人を定義しているのか。
本来は、自動車業界、カメラ業界、出版業界、家電業界、
農産物業界、海産物業界など
種々色々な「業界」が存在するはずです。
しかし、自動車やカメラ、家電、
米造りや魚を獲っている人が勧めるレストランという特集は
あまり見かけません。
では頭を端折った「業界」とは何を指しているのか。
少なくても「すずきB」氏本人が言っていますから、
放送作家は入るのでしょう。
ディレクターやプロデューサーとの食べ歩きが載っていましたから、
TVやラジオ放送局の人は皆「業界人」になります。
もう少し広げるとしたら、
彼らと付き合いのある広告代理店や
出演タレントたちも入るのかもしれません。
今回、「すずきB」氏は
すすんで自分を「業界人」と称して出版してきましたが、
世間一般ではこの「業界人」、
良くも悪くも2通りの解釈がされているのではないでしょうか。
良いイメージをもたれている方は、
「料理の鉄人」や「魂のワンスプーン」を見て、
単純に凄いと感心される方。
鉄人の店がおいしいはずとすぐ連想されてしまう純粋な方です。
鉄人たちは、売名、宣伝のためTV出演し、
一所懸命おいしい料理を造っていますが、
その情熱を日頃自分の店では示していない、
まったく別物の料理を出しているということが
おわかりにならない方たちでもあります。。
世にはこの層がマジョリティーなのでしょう、
次々とグルメ企画の底の浅い番組が放映されています。
ここまで書きますと、
友里はまたまたTV関係者から嫌われてしまうでしょう。
将来顔出しを考えている人ならば、絶対に触れないテーマですが、
私にはタブーではありません。
そしてもう一つは、
「何だ、『業界人』ばっかりの店じゃないか」、
「あの店は『業界人』好みの店らしいですよ」と言って、
逆に敬遠する方たち。
業界人=食通とはまったく考えないというか、
食通どころか味にうとく、センスがあるとも思っていない層です。
どちらかというとこの友里は、
後者の方々向けにコラムや出版をしております。
私も拙著やコラムで辛口に評価した店で
「いかにも『業界人』向け」と著した記憶があります。
負のイメージで使っています。
読者の業界人の方からは、このようなスタンスだから、
つまりマイナーを相手にしているから売れないのだ、
とのアドヴァイスを受ける事もあります。
確かに電撃的にデヴューした来栖けい氏は、
あっというまにTV、ラジオ出演はおろか、
日経の夕刊1面にまで登場してしまいました。
毒、棘のない評価姿勢ですからそれも納得です。
元ソムリエの田崎氏、マスヒロ氏、犬養女史をはじめ
人気のある方たちは、
グルメ評論と称してバラエティ番組などへの露出も多く、
それが生業の根源になっているようですから、
当然彼らと「業界人」との関係も良好なのでしょう。
しかし、演劇評論や文芸評論、絵画評論が
バラエティで扱われる番組は記憶にありませんし、
それらの評論家たちが
お笑いタレントと共演しているというのも見ません。
なぜに飲食店評論だけがこのようになってしまったのでしょうか。
グルメ物は売れる、数字が取れるとの
「業界人」の嗅覚に引っかかったのでしょうが、
この路線が続くかぎり、
グルメ評論は底の浅い分野から脱出できないと考えます。
ま、眉間にしわ寄せして言うほど、
もともと大した分野ではないのでしょうが、
料理人以外にも、元ソムリエや自称料理評論家、
フード・レストランジャーナリストたちが安易に
自己の利益、儲けにはしってしまった結果ともいえると思います。
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