自腹ゆえに本音、愛するがゆえに辛口。
友里征耶さんの美味求真

第167回
5千円コースとしてはお値打ち、「勝三」

この店もガイド本や評価本でほとんど取り上げられておりません。
最寄りは新宿3丁目駅でしょうか、
まったく小さなスタンド割烹の「鰻」専門店です。

私が日頃疑問に思っているのが鰻の蒸し加減です。
巷で最高評価されている「尾花」や「野田岩」にしても
私には蒸しすぎで柔らかすぎると感じます。
「口の中で溶けてしまいそうでうまい」
という表現を耳にしますが、「蒲蒸」ではなく「蒲焼」のはず。
食感のない焼き魚がうまいとは思えません。
天然物になっても同じように蒸してくるのも疑問です。
養殖と天然の違いは、脂の質や量ではないでしょうか。
天然鰻も養殖と同じように蒸して、
脂を落としてしまうのは能がないと考えます。

「勝三」は主人と奥方の2人の小さな店です。
1階が6名くらいのカウンター、2階は個室に利用できますが、
レストルームの狭さといい、雑然とした店内、
まったく居心地のよさは感じません。
そして主人の癖のある対応に慣れない一見客は
引いてしまうかもしれません。
夫婦共にパンチパーマのようなヘアースタイルに加えて、
頑固な主人は鰻に山椒をかけることを許しません。
鰻の旨みを感じなくなるとの理由ですが、
その威圧感に圧倒される客も多いでしょう。

その場で鰻を捌き、白焼きしてから確かに蒸していますが、
ここの鰻は食感がプリプリしています。
大きな鰻を否定して、小ぶりな物を用意しており、
炭火ではなくロースターで焼くなど、
昨今の有名店とは異なります。

昼は2300円の鰻重、
夜はワンパターンのモロキュウなどの突き出し、
北陸からと言われる造り、
何かご利益があるのかわかりませんが
お酒と一緒に飲み込む鰻の生きた心臓、うまき、煮物などが続いて
シメがこの鰻重となり5千円です。

ああだ、こうだ、と主人の薀蓄が続いて洗脳されるからか、
造りなども食材の良さを感じてしまいがちですが、
この鰻だけは
確かに他の店とはまったく違うものだと言えるのです。
本来ならば、評論家やフードジャーナリストが取り上げたくなる、
立地や店構えと料理にギャップのある店だと思うのですが、
主人の個性が邪魔して寄り付かせないのでしょうか。
追加料金で特別な食材を用意したり、
冬には河豚を出したりするようですが、
昼は鰻重、夜は5千円コースで充分と考えます。
慣れないと居心地は最悪でしょうが、
「蒲焼」とは何なのか考えるには、
1回は試されても良いかもしれません。


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