| 第142回ホテルの鉄板焼きは肉の旨みを引き出せるのか
 帝国ホテルの「嘉門」など、元はフレンチのメインダイニングだったところを、
 鉄板焼にしてしまった場合もありますが、
 高級ホテルでは定番の料理店の一つがこの「鉄板焼」です。
 ホテルのフレンチへ食べに行こうと考える人たちは、
 確実に減ってきています。
 帝国ホテルだけではなく、メインダイニングをフレンチではなく
 イタリアンなどに変更する所も見かけるようになりました。
 日本で、東京で、
 フレンチを食べる客が減っているのではありません。
 フレンチを食べに行く際の店検討で、
 ホテルのフレンチがわざわざ食べに行くほどの価値がない、と
 判断する人たちが増えてきたと推測します。
 反面、ホテルの高額料金の料理店の中では、
 この「鉄板焼」が一番人気なのではないでしょうか。
 場所も最上階に近い見晴らしの良いところが多いですし、
 夫婦ではない男女のカップルの出没率が多いのも特徴です。
 焼肉ではちょっと抵抗がある人で、
 見た目が悪くなく手っ取り早く食事が終わる料理は
 鮨と鉄板焼でしょう。
 同伴入店時刻に合わせる為
 食事の終わり時刻に制限にある「同伴カップル」、
 アフターを考えているが
 どうしても帰宅しなければならないカップルなどには、
 3時間あまり要するフレンチは使い勝手が悪い。
 かくして、この手の客層と、
 時間は無制限だがなにかパワーが付きそうだと錯覚する
 肉とニンニクに釣られるお泊り組も加わって
 繁盛していると考えます。
 では、果たしてホテルで唯一人気の「鉄板焼」。純粋に肉料理としてうまいのでしょうか。私はそうは思いません。
 どこのホテルでも、
 売れ筋は1万5千円くらいのコースでしょうか。
 突き出し、刺身、貝かエビ、そして200グラムない
 牛肉とライスの構成だと思うのですが、
 どれも傑出したものとは思えません。
 特にメインの肉。肉は素材の次に焼き方が命です。鉄板焼は料金とグラム数の関係で肉は薄くならざるを得ません。
 焼き具合を指定しても、
 厚さが薄くては、食感と旨みを感じないでしょう。
 それに、日本人のサシ神話。
 鉄板で脂が下に落ちず、
 焼き物というより油に浸かって揚げ物になりそうな薄い肉。
 自身の脂が多すぎるだけに
 尚更肉らしい食感が薄れると感じるのは私だけでしょうか。
 そして料理人が勝手に細かく切り分けるという
 とどめの愚挙に出てきます。
 薄く小さく脂まみれ、それを隠すために
 ポン酢や胡麻ダレが用意されているのでしょうが、
 この調理法で
 肉の本当のおいしさが味わえるわけがないと考えます。
 巷のフレンチ、イタリアンでは炭火焼がブームです。焼き鳥も、鉄板で焼いたらおいしくないのではないでしょうか。
 高すぎてCPの悪い「あら皮」も鉄板ではありません。
 しかし肉本来の旨みを教えてくれる店としては
 一回訪れる価値はあるでしょう。
 それでも肉の本来の旨さが伝わらないと思われる「鉄板焼」が流行るのは、
 一部の熱狂的なリピーター支えているという事でしょうか。
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