第53回
ソムリエの実力・実態 その5
ブショネ隠し、タイユバン・ロブション
小さなオーナーシェフの店ではありません。
東京を代表する「グラン メゾン」のシェフソムリエが、
ブショネ隠しをしたのですから問題です。
彼は、ブショネがわからない
技量の低いソムリエではないはずです。
以前はコンクールでも入賞者の常連だったはず。
我々よりブショネの判断力は上回っているはずなのです。
ブルゴーニュの有名造り手の特級畑の
ハーフボトルを頼んだ時です。
92年物で、ハーフといえども優良年ですからかなりの価格でした。
形ばかりのテイスティングを簡単にすまそうとしたのですが、
口に近づけた瞬間、「ブショネ」を感じ取ってしまったのです。
最初は「ちょっとおかしい」との柔らかいクレームに、
シェフソムリエは「まだ固いようです」と
デカンタージュしました。
固いかどうかの判断が出来ないと思ったのでしょうか、
それに、デカンタージュは
「ブショネ隠し」の常套手段でもあるのです。
軽いものならデカンタージュで感じ取りにくくなります。
素人には有効な手段なのです。
でも、このワインはブショネが飛ばなかった。
「はっきりブショネのようだ」とクレームを付けたのですが、
結果的には受け付けられなかったのです。
「最初は私もヒヤッとしたのですが、還元香でした。」とか、
「瓶の口の外側にカビがついていて、
注ぐ時にワインへ入ってしまった」とか
訳のわからないことを言って抵抗します。
最初のクレームの時は、「固い」と言ったのに
まったく矛盾しています。
仮に外側のカビが入ったとしても、
瓶口の汚れを拭かずにワインを注ぐのは、
ソムリエの手順としては違反です。
なんとかブショネを認めず、このまま客に飲ませてしまえ、
残りが数本しかないから取り替えられない、
といった考えが見え見えでした。
ブショネのクレームは、ソムリエが認めて初めて成立しますから、
この場合は押し問答で終わってしまいます。
大事な記念日でもありましたし、
やり取りしながら飲んで確認しましたから、
かなり飲んでしまったこともあり、声を大きくしての騒動は避け、
次の赤ワインに期待して折れた次第です。
このソムリエの抵抗は、経営者の方針だったのでしょうか。
交換しても彼自身の懐が痛むわけではないはずですが、
完全に客を舐め切った態度でした。
ブショネではなく、ただ状態が悪かった、本来ならば古酒なので
リスクは客もちで交換する必要のないワインでさえ、
ちょっとした同伴者とのささやきを聞きつけて交換してくれた、
「ロオジェ」のシェフソムリエとは対照的なものでした。
有名ソムリエでも信用できない人はいるのです。
グラン メゾンでもワインの注文の際は、充分注意してください。
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