第26回
ブラインド テイスティングは心理戦
フランスのワイン商と日本の有名ソムリエが
初めて出会った時のことです。
ワイン商は自宅へソムリエを招き、
そこで1本のワインをブラインドで振舞ったのですが、
見事そのソムリエはワイン名とヴィンテージを
当ててしまった伝説がワイン好きの間で言い伝えられています。
確かに本当に当ててしまったと思います。
でも、ワイン商が自分の意思でワインを選ばず、
目隠ししてセラーからむんずと
ワインを無作為につかんで出したなら、
当たらなかったと私は思うのです。
このケースではソムリエにいくつかの
有利な条件が揃っていました。
ブラインド テイスティングを臨まれたソムリエは
まずどう考えるでしょうか。
「いやー、弱った」と一瞬考えたと思います。
昨日述べましたように、
それほどブラインドはプロでも難しいというか当たりません。
ですから、逆に当たらなくて当たり前と
開き直ったかもしれません。
そこで、ワイン名をあてる心理戦が始まりました。
ワイン商はフランス人ではないのですが、
フランスで仕事をしています。
主な買い付けもフランスワインが主体です。
日本人といえども有名なソムリエである自分を
自宅へ招待したのですから、
出すワインは「フランス産で、高級ワイン」
であることは想像するに難くないのです。
まさか、初対面の人に、
フランス産のテーブルワインとまではいかなくても、
格付けの低いワインを出すことは考えられません。
ワイン商にも見栄があります。
フランス産で高級ワイン、というのが無条件で断定できますから、
産地はボルドーとブルゴーニュの2大地域にまず限られてきます。
他にも高級産地がある、とのご意見があるかもしれませんが、
こういう親善のブラインドでは出しません。
絶対当たらないのでルール違反になります。
実力のないソムリエではなく超トップソムリエなので、
多少熟成していたとしても、
まず、ボルドーかブルゴーニュかを間違えることはありません。
ここで、ソムリエは「ブルゴーニュ」とまず判断しました。
ブルゴーニュで高級ワインは何かというと、専門的になりますが、
コート ド ニュイ地区が一般的です。
「シャンベルタン」や「ヴォーヌ ロマネ村」の
特級畑が有名です。
そして、有名畑や有名な造り手の名が
ソムリエの頭の中を巡ります。
高級とされている畑、造り手はそんなに数が多くはありません。
そこで、味わいと色との関係に注目したのでしょう。
色が薄いのにしっかりした味わいがある。
しかもメーカー独特の香
(私は乳酸香のようにイメージしています)がある。
となると最終的には、このワインしか考えられません。
DRC社の「ロマネ コンティ」です。
結論はいかにも有名なワインコレクターが見栄を張って、
そして当てやすいだろうと出してくるワインなのですけど。
これほど有名なワインですと、
有名ソムリエならば色々な年代を比較して
飲む機会があったと思いますので、
ヴィンテージもなんとか当てられたのでしょう。
見栄がありますから、
そんなに若いロマネコンティを出してこないという
読みもあります。
世界で一番平均価格が高く、
一番有名なワインを当てたのではなく、
中堅どころとか、無名のワインを当てたという
この手の話は今まで聞いたことがありません。
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