自腹ゆえに本音、愛するがゆえに辛口。
友里征耶さんの美味求真

第9回
ワインのホストテイスティングとデカンタージュ

レストランでワインを頼む時
避けて通れないのが「ホストテイスティング」です。
注文したワインが健全であるかどうかを
ホストがチェックする儀式ですが、
「ブショネ」なのかどうかの判定が主体です。
ソムリエの事前のテイスティング能力がしっかりしていて、
ブショネのワインだったら交換する正直なソムリエでしたら、
こんな儀式は必要ないものです。
この大そうな儀式はなんとなく
ワインの初心者には腰が引けてしまうものでして、
ワインの普及の妨げになっているようです。
ワインは古酒になればなるほど
良い状態での熟成がリスキーになってきます。
健全な保存をしていたからといって、
購入前の保存状態にも影響されますから、運次第な面もあります。
でも、それを承知で注文するわけですから、
よほど悪い保管状態の影響だと思われるワインしか
文句は言えません。
でも、若いワインにもある「ブショネ」は
どうどうとワインの交換を要求できるものです。
(ブショネに関しては後日詳しく述べます。
カビ臭い、苦い味の不健全なワインと思ってください)

では、ソムリエに任せればよいのに、
なぜ未だにホストテイスティングが存在するのか。
それは、ソムリエが正直に「ブショネです」と
申告せず客にそのまま出す場合があるのと、
「ブショネ」を判断できないソムリエが実は多いからなのです。
このソムリエの実力については後日述べます。

「ブショネ」を認めるとお客にもう1本
同じワインを開けなければなりません。
仕入れの倍以上で値付けしている料理店のワインですが、
それでも粗利がほとんど飛んでしまうことになります。
ましてや、本数が少ないレアワインや古酒だったりしたら
被害は甚大です。「ブショネ」のワインはせいぜい、
判別できそうもない客にグラスワインとして出すしか
使い道はないのです。でも、それも本当はやってはいけません。
でも、ソムリエを信じきっているからか、
それとも「ブショネ」が良くわからないからか、
このホストテイスティングは
日本ではただの儀式化となっているようです。

デカンタージュ(ボトルからデカンタに移しかえること)の
意義は人それぞれ違った意見があるようです。
もっとも一般的な目的は、
やや古めのワインの澱を分別させるということ。
そのほか、若いまたは閉じ気味
(香りがたたないというような意味)
のワインに活を入れるためにもやる場合があります。
ボルドーはやるがブルゴーニュはやらない、
という人も多いですし、
「エノテーカ ピンキオーリ」のオーナーである
ピンキオーリ氏のように、ブルゴーニュでも基本的には
何でもかんでもやった方が良い、という意見の人もいます。
正解はありません。
私個人の考えは、安めのワイン(つまりあまりおいしくない)は
バンバン何回もデカンタージュした方がおいしくなる、
同じく若いワインもデカンタージュした方がいいが、
古酒やレアワイン、高額ワインは
たとえ澱が凄くあったとしても、やらないことにしています。
前もって準備しておけば、パニエ抜栓で澱の侵入は防げますし、
高額ワイン、レアワインは
若いうちには開けることを推奨しませんので、
閉じた状態のワインには出あわないからです。


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