はじめてマンションが建ちはじめた二十年前は坪当たりの売値が三十万円で、十二坪で三百六十万円だった。いま考えてみると、嘘のような値設だが、それでも高価だと思われていたのである。いまはそれが平均して坪当たり二百万円だから、二千四百万円になる。渋谷や青山あたりになると、三百万円になり、一流不動産会社が建てている一流マンションになると坪当たり四百万円というのもある。これだと十二坪で五千万円近くになってしまう。
ついこの間、サンフランシスコで聞いた話だが、アメリカのダラスの近くで、土地が六万坪ついてベッドルームが五室ある大邸宅を十五万ドルで売りたがっている人があり、誰も買い手が現れないという。ガラガラ蛇もでるような片田舎だそうだが、それでも六万坪の大邸宅(これこそ本当のマンションだと思う)が東京の十ニ坪のマンションより安いのだから、世の中、常識では通用しないところがあるのである。
そういう世界一高いところにあるマンションだから、お金のある人もない人も、自分が理想とする広さよりは狭いところに住んでいるのが東京の住宅事情である。三十坪とか五十坪のマンションに住んでいるなら、狭いといっても人並みだと思うが、十五坪とか十二坪に親子四人で住むとなると、かなり工夫を要するようになる。最近はワンルーム・マンションというのが流行になって、夫婦でワンルームに住んでいる人も多いが、これはあまり感心しない。夫婦喧嘩になった時に逃げ場がないと家出をするよりほかなくなり、家出が常習化すると、じゃあ別れちゃえ、ということになるからである。
だからマンションのことを、いつの頃からか、駄ジャレのうまい人が「ガマンション」と呼ぶようになった。狭いところにガマンして住むのも、利点があればこそである。その利点とは「便利なところにあって、仕事場に近い」ということにほかならない。
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