努力して好きになるのも好きのうち
手に合わない仕事に見切りをつけて、好きな仕事に乗りかえるのも一つの生き方であるが、死ぬほど気にくわない仕事でなければ、逆に仕事を好きになるよう努力するのも一つの生き方である。
魚屋で働いているよりも、歌手になりたいと思っている人に、魚屋稼業の方を好きになれ、とすすめてもあまり気乗りがしないかもしれない。声がよくて、顔もよくて、そのうえ歌うのが好きな人が作曲家の先生を訪ねて行って、うまく拾ってもらえれば、幸運がひらけるということはあり得ないことではない。
しかし、そういう確率は一万人に一人くらいであるから、「歌手になっていたら、きっと大スターになっていたに違いない」と思わせるようなお客への人気を利用して、魚屋として成功する道を歩んだ方が着実なことは確かである。
さほど仕事が好きでもなかった人が、仕事を好きになるきっかけはいくつか考えられる。まず第一は上司に認められることである。何かのきっかけで、力量を認められ、人から目をかけられると、人間は俄に張り合いが出てきて、仕事が面白くなる。仕事が面白くなると、いろいろと工夫もするし、努力もするからますます成績があがって、ますます目立つようになる。
第二に人事異動で、いままでと違った部署に配置転換され、水を得た魚のように、俄に勢いづいた場合である。人事課にいた人が宣伝課にまわったとか、総務課にいた人が営業課にまわった途端に、「これこそオレの仕事だ」と思うようになったとすれば、人間には案外、向き不向きがあって、机に向かって座ってはおられない人もあれば、机に向かっていないと仕事のできない人もある。
その人の性質に向いた仕事にうまくぶつかった時に、人は生きかえったような気持ちになるものである。
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