| 第157回骨董と人―ボロは着てても一発30万ドル
 
           
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            | 11世紀ウマー神(バプオン様式) |  「朝っぱらから景気のいい船に乗ってるじゃない」
 と言うと彼は僕の手を強引に引っ張って店に急いだ。
 「昨日はありがとう。
 店の品で気に入ったのがあれば、あんたの言い値で売るよ」
 と言う。
 彼はとてもシビアでケチ。
 値段が合わずしょっちゅう物別れになる。
 ところが今日は朝から変な風が吹く。
 例のビシュヌ神、ああ言ってくれるから訊いてみようと思い、昨日の場所へ行くと石像がなくなっていた。
 「あれ、ここのどうしたの?」
 と聞くと店主はとろけるような嬉顔をした。
 「売れたんですよ、昨日」
 「えっ!あの若いのが買ったのか?」
 「ホントです」
 「お金大丈夫?」と僕が言うと、
 「ノリキさん、人は見かけで判断したらダメですよ。
 あなた知ってる?
 アメックスのブラックカード?」
 「ぜんぜん知らんがな」
 「年間1500万円以上使わなければならないVIP用のカードだ。
 家も買えるらしい」
 不愉快になってきた。説明は全部やらせて、いいところを持って行かれた気分だった。
 彼の話によれば、その後若者が石像を買うといったそうだ。
 どうせ買えないのだからびっくりさせようと思い
 30万ドルと吹っかけた。
 すると値切りもせず「OK!」といってカードを出したそうだ。
 30万ドルも使えるカードを彼は知らなかった。
 からかわれたと思ったが一応カードを受け取ったらしい。
 いつも見慣れたカードとはぜんぜん違う、黒いカードだった。
 デザインから見て偽物とも思えないので
 アメックスに問い合わせたところ、
 「全く問題ありません。その方の買い物は無制限にOKです」
 といわれ、飛び上がった。
 ホテルを聞いたところオリエンタルのスイートだと言う。
 それで今朝早く奥さんと花を持って挨拶に行ったらしい。
 僕は店主に名前を聞いたが、客を取られると思ったのか教えてくれなかった。
 名前を聞き逃したが、
 ばさばさの髪、背が高く痩せ型、丸いめがね。
 あの若者がビル・ゲイツではないかと今も疑っている。
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