第121回
<とぴっく10>
資産4200億の人
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南宋天目茶碗
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「あ〜、暑い!京都の夏は耐えられんね」
と言いながら、関西で一番暑い天神祭りの前日に
Aさんは扇子をバタバタさせながらやって来た。
ジェスチャーの割には汗もかいておらず、
黒い背広をびったりと決めている。
僕は見ていた。
表にロールスロイスの最高級車が停まり、
運転手が最敬礼していた。
車から店までの距離は10メートル。
そんなに歩いていないので暑いわけがないのだが、
「暑い、暑い」というのは彼の口癖だ。
「何か面白いものある?」
彼は近頃友人がお茶を始めたとかで、
茶碗や水指に向く、
ベトナムやタイの焼き物に興味を持ってくれている。
気に入ったものがあればスパッと買ってくれる良いお客様だ。
しかし根が厳しいビジネスの人なので、
伝来があるとか、本に載っているとか、
人が評価したものはだめなのだ。
自分がよいと思うものだけを動物的な勘で選ぶ。
しかしそれが意外と良いセンスで
驚かされることもたびたびあった。
ちょうど海外仕入から帰ったところだったので、
荷物の中から3点ほど良い茶碗を薦めた。
「それ全部もらうよ。いくら?」
といいながらもう手提げ鞄のチャックを開けていた。
「3点で60万ですが」
とやや遠慮気味にいった。
「50万円にしとき」
と、はやお金を数え始めている。
僕はこの取引で15万円ほど利益を頂いた。
彼に茶碗の仕入話をした。
実に楽しそうに聞いてくれた。
1時間ほどして彼が腰を上げかけた。
「島津君、楽しかった。また来るからいいもの見つけておいて」
と片手を上げながら立ち上がった。
その時ある人から耳寄りな情報を得ていたので
Aさんに切り出した。
「あ、社長。僕の知り合いが○○駅前に
400坪ほどの売り土地があると言ってましたよ」
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