第116回
<とぴっく10>
長者番付6位の人は…チェンマイで出会った細身の日本人
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バンチェン土器
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タイ北部チェンマイは
今でこそ誰でも知っている町だが、
嘗ては日本人にはあまり知られていなかった。
この町が有名になったのは
幼妻十数人と同じ家で暮らしていたTさん事件からだ。
ここに当時ご主人が
タイの情報関係の仕事をしている骨董屋があった。
僕はその女主人と話をしていた。
その時ドアを開けて日本人の中年男性が入ってきた。
若い女性の秘書と現地のガイド、
表にはツーリストポリスの護衛を伴っていた。
辺りの人達が緊張感を漂わせているところを見ると
かなりな大物らしい。
女店主もどうやら僕との取引より
そちらのほうが大事と思ったのか、
椅子から立ち上がって彼のところへ行ってしまった。
仕方がないので僕は
奥の展示品をもう一度値打ち物がないかと探し始めた。
女店主は5、6点の壺や皿を持って
先程まで僕が商談していたテーブルに置いた。
その日本人に愛想笑いを浮かべ
盛んにアプローチしている。
商談が終わるのを待っていても時間ももったいない。
いろいろな経費を考えると
海外出張のビジネスタイムは一分400円くらい掛かっている。
「また来ます」といってその場を離れようとしたとき、
「君、すまんね。少し教えてくれんかね」
と男性が声をかけてきた。
女店主は僕を逃がしてもと思ったのか、
盛んに椅子に「座れ、座れ」と勧める。
そんなわけで僕も男性の横に座り込んだ。
どこかで見たことのある顔だが思い出せない。
そのときは思い出せなかった。
ま、自慢ではないが
昔から人の顔や名前はまったく覚えられない。
彼はタイの古代陶器バンチェンと言う土器を
テーブルの上に置かせていた。
「これどうだろう?」と僕のほうを向いて言った。
「どうだろうって値段ですか?
いいものかどうかということですか?」
と僕は聞き返した。
すると彼はびっくりしたような表情を浮かべた。
僕もサラリーマン生活を長くやっていたので
オーナーの聞き方は大概こんなものだということを知っている。
自分が考えていることは誰もが分かっているはずと思っている。
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