「骨董ハンター南方見聞録」の島津法樹さんの
道楽と趣味をかねた骨董蒐集の手のうち

第79回
商品学(ラオス編)
5. 布―ジャングルは山繭の揺りかご

メコン河沿いの村

ラオスは内陸国だ。
国土は険しい山と緑の平野が織り成す常夏の国だ。
山岳地帯には色々な少数民族が住んでいる。
彼らは固有の文化を持っており、
その服装や身につけるアクセサリーなどは
個性的で心惹かれるものが多い。
山岳民族の服装やアクセサリーに十年以上の年月を掛けて
一冊の本をものにしたアメリカ人を知っている。
それもこの地に住んで
現地の人と同じような暮らしをしたという、なかなかの人だ。

その山岳民族が自分達のために
養蚕をして素晴らしい布を織っている。
しかし、昨今ではその作品を大量に作り
観光土産やビエンチャンの市場に
おろしているようなものもある。
こんな東南アジアの秘境で織られる布でさえ、
手抜きのない質の良いものは近頃入手が難しくなってきた。
金儲けにかける鵜の目鷹の目というものは
実にその由来どおり、どこにあっても洩れはない。

さて、良い作品は飽きが来ず、肌になじんで
使えば使うほど魅力的なものだ。
安物土産品のような工場生産風なものも多くなってきたので
見る目を養って布の仕入れをしなければならない。

十数年前、ビエンチャンのフリーマーケットで
山岳民族のテキスタイルを選んでいた時のことだった。
その店は中部ラオス辺りの山岳民族
モンの人たちが作った布を扱っていた。
デザインも良く、織りもしっかりしていた。
何より染が草木染で風合いがあり、
他のものより遥かに絹糸の密度が高く
心が込められたものであった。
スカーフや服など20点ほど購入し
支払いを終えて奥の棚を見ると、
艶やかな黄金色した生地がたたんでおいてあった。

蒟醤で(ビンロージュの実や蒟醤葉を石灰を混ぜて噛む)
口を真っ赤にした40歳くらいの女性が
値打ちを持たせるように言った。
「近頃珍しい黄金の山繭で織った布だよ、ジープン(日本人)」
「いいものなの? ちょっと見せてくれる」
「これは売りたくないんだけどね」
といいながら棚から10メートルくらいの生地を持ってきた。
手にとって見るとドシッと重い。
それになんとも気持ちのいい肌触りだった。

「これ幾ら?」と聞くと意外と安かった。
もっと他にないかと聞いたが
「こんな品は近頃めったに入ってこない」
といって包む前の布を愛しそうにパンパンと叩いた。
他にもないかとマーケット中を探したが
二、三百店ほどの布屋のどこにも
黄金の山繭で織った布はなかった。
持ってかえって高級紳士服のS店に連絡したところ
イッパツで買ってくれた。
「これでいいですか」と40万円も出してくれたのだ。

僕は結構忙しく、
海外へ行くと分刻みで動き回っているので試していないが、
ラオス山岳部にはきっと素晴らしい山繭があるはずだ。
上手な織り手と山繭を結びつけたら、
きっといけるビジネスだ。


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