| 第63回商品学(インドネシア編)
 2. バティックで大儲け、ホテルを手に入れた話
 骨董に興味がない方は着古した布が一枚20万から30万円もすると聞けば
 ひっくり返るだろう。
 昔は僕も同じようなものだった。
 初めてそんな布と遭遇したのはジャカルタの暑い昼下がり、
 とある小さな家の土間でのことだった。
 「これが印金更紗だ」といって布に金箔を貼り付けたものを顔見知りの口利き屋が取り出した。
 先ほども同じような話を
 「言い値で売れる」と
 クボンスリーチモールダラームの
 ある骨董屋で聞いていたので、彼の話にひきつけられた。
 薄い絹地に花柄や鋸葉文が描かれた上に金箔がペたっと付けられ、洗いさらされた古布だった。
 手にとって見ると独特のダラッとした絹の感触が心地よかった。
 こんな布を今仲買人たちがあちこちで買い集めているのだ。
 バンドンやカリマンタン、
 ジョグジャカルタ辺りの旧家へ行って集めていた。
 おばあちゃんの時代に使われていたものだ。
 ショールや巻きスカートなどで印金の施された上等なものは
 インドネシアでは代々大切に使われている。
 金箔の入った布はまつりや結婚式などの晴れ着なのだ。
 貧しいインドネシアの農民は自分一代で買えないから
 上等の布ならば2代、3代と使っている物がある。
 何故急激にそんな布の値段が高くなっているかというと、ジャカルタの目端の利く骨董屋ジョディさんが買っているからだ。
 彼はある時オランダのディーラーから
 バティックの古いものや印金更紗を集めてくれ
 と頼まれ買い付けた。
 それを5倍くらい吹っかけても、
 そのディーラーがドンドン買っていった。
 そんなことを一年ほどやっていると
 アメリカやイギリス、日本などからも業者がやってきた。
 本業の陶器や石像彫刻などより、うんと良い商売になった。
 手を広げて仲買人を島々に派遣し、
 さらに買い付けを強化した。
 ちょうどそんな時僕もジョディさんのテキスタイルの仕入れに興味を持った。
 2階の彼のストックを見せてもらったところ、
 直径3センチほどに巻かれた印金更紗は
 数千枚を優に超えるほどの量になっていた。
 それから一年も立たないうち
 再度二階に案内してもらったところ、
 そのストックの殆どがはや売りつくされていた。
 ジョディさんの販売力に舌を巻いた。
 僕も2,3枚買おうと思って「見せてくれ」と頼むと、
 「いいよ」といって畳一枚ほどの布をサーッと広げ、
 「3000ドルだ」というのだ。
 1年前クボンスリーの口利屋は100ドルといっていた。
 もしジョディがストックを1枚3000ドルで売ったとすれば
 ものすごい利益が出ているはずだ。
 骨董でも最初にアイデアを掴んだものが
 成功する例は幾らでもある。
 ジョディさんはその後、
 市内中心地に結構いいホテルを買い、
 プール付の豪邸を手に入れた。
 僕もいつかあやかりたいものだ。
   
           
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