誰が日本をダメにした?
フリージャーナリストの嶋中労さんの「オトナとはかくあるべし論」

第121回
あらすじ読めば教養人?(その一)

敬愛する佐藤愛子女史の健康法は
「血が沸きたぎるほど怒ること」と、以前書いたことがある。
毎日、憤死するくらい怒りまくれば、
老廃物が噴き出て、かえって心身爽快になる。
私もこの佐藤式健康法にいたく共感し、
家人の非難がましい視線も何のその、
新聞を読んでは怒り、テレビを見ては怒りまくって、
日々健康の増進に努めている。
おかげで体調はすこぶるよろしい。

最近目にした怒りのタネ、いや“健康のタネ”は、
いわゆる「あらすじ本」の流行だ。
『あらすじで読む日本の名著』だとか
『あらすじで読む世界の名著』だとかいう本が
数十万部も売れる大ヒットで、類似本が引きも切らぬという。
もともと高校の国語の教師たちが、
マンガ世代の子供たちに
古今の文学作品のすばらしさを知ってもらいたい、
との思いから企画発刊したものらしいが、
その思惑とは裏腹に、「中高生」には肩すかしを食わされ、
逆に「中高年」の購買意欲を刺激することとなった。
バカ受けの理由は
「教養としてあらすじだけは知っておきたい」
とする中高年の熱き思いがあるのだという。

古今東西の名作がわずか五ページ
(原稿用紙10枚程度)に要約されているというのだから、
速読家の私なら一日で150〜180冊読んでしまう計算になる。
『日本の名著』には
「浮雲」「李陵」「五重塔」など、
『世界の名著』には
「女の一生」「怒りの葡萄」「ベニスの商人」
などが取り上げられている。
露伴の「五重塔」は原作で読んでも80ページそこそこ、
中島敦の「李陵」にいたってはたかだか50ページにすぎない。
その50ページに労を惜しみ、あらすじだけで済ませようという。

あらすじに触発され、原作を読みたくなる、
ということは確かにあるだろう。
が、それなら文庫本の裏表紙の簡単な内容紹介を読めば足りる。
私が不審に堪えないのは、
あらすじさえ読めば「教養」が身につくと錯覚している
オトナたちが存在することだ。
仕事が忙しくて本を読む時間がない。
だから話のタネにあらすじだけでも知っておきたい、か? 
名作文学を買い求めるなんて、
いかにも若い頃の不勉強ぶりを見透かされるみたいで、
いまさらみっともなくてできない、か? 
重ねて聞く。
本音のところは、読んでもいないのに読んだふりをして、
つまらぬ見栄を張りたいがため、ではないのか?
教養主義の復活だなんて、よく言えるなあ。


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