誰が日本をダメにした?
フリージャーナリストの嶋中労さんの「オトナとはかくあるべし論」

第119回
何が慶應ボーイだ

以前、東大出身者はかわいそう、という話をした。
東大卒は、自分が東大卒であることを常に意識させられ、
周囲の者にそれとなく知らせたいという、
ある種のオブセッション(固執観念)に
絶えずつきまとわれている。
東大卒は東大卒であることを
夢寐[むび]にも忘れない」という言い方をした者もある。
寝ても覚めても「俺は東大卒なんだ」と意識し続けるというのは、
ほんとうに大変だろう。
ご苦労さま、としか言いようがない。

こうした持病は東大生特有のものかと思ったら、
実はそうでもないらしい。
悲しいかな私の出た学校の卒業生も、
多くこの病気を抱えているらしい。
以前、「世界バリバリバリュー」とかいうテレビ番組を
たまたま見ていたら、
神奈川県知事を囲む会の紹介があって、
その会の参加者は全員慶應出身者だった。
もちろん知事も慶應ボーイで、
慶應高校時代はラグビー部のキャプテンだった。

その囲む会の慶應OBたちに
「慶應ボーイであることは誇りですか?」と聞けば、
揃って大きく頷き、
できれば自分が慶應ボーイであることを
それとなく周囲に知らしめたい、などという者もいた。
露骨にやってはヤボになるので、
「出身校は?」と聞かれたら、
「いや、大したことないです」とまずは空っとぼけ、
重ねて聞かれたら「港区のほうの……」などと、
なおも思わせぶりな返答を繰り返すのだという。
インタビュアーに「いやらしいですよね、それって……」
と突っ込まれると、さすがに照れ笑い。
見ていて、ほんとうにいやらしいと思った。

慶應出身者は大学を卒業しても団結力が異様に強く、
銀座には慶應OBのみ入ることが許される
会員制のクラブまである。
年会費は三万円で、会員数は三千人だという。
また慶應OBたちの子女同士の結婚を斡旋する
便利な機関だってある。
身内をことごとく慶應出身者で固めてしまおうというわけだ。
また野球やラグビーの早慶戦ともなるとOBたちも駆けつけ、
老いも若きも肩を組み、
《陸の王者ァ、慶應ーッ!》と
応援歌『若き血』を昂然と歌い出す。
慶應ボーイはこの応援歌が殊の外お気に入りで、
OB同士が集まると、羞恥心などどこへやら、
所かまわず歌い出す。
はた迷惑もここに極まれりだ。
私は元来、校歌や応援歌を高唱してうっとりするような
粗雑なセンチメンタリズムを好まない。
顔から火が出るほど恥ずかしい。
何が慶應ボーイだ、ばかばかしい。


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