| 第116回「進歩的」大っきらい!
 「戦後60年を一言でいってください」 こんな質問があったなら、私は迷わずこう答えるだろう。男が限りなくだらしなくなった60年であったと。
 女とナイロンストッキングが強くなったという者があるが、女は少しも強くなどなっていない。
 男が男であることを忘れて退行したぶんだけ、
 女が鬼の居ぬ間の洗濯とばかりに羽をのばしているだけの話で、
 単なる認識の相対性であり錯覚でしかない。
 男たちの見るも無惨な姿はテレビCMを一瞥するだけで足りる。エプロン姿も初々しく、
 嬉々として台所仕事をしているのはたいがい若い夫だし、
 洗濯だって風呂桶掃除だって、近頃は夫の役回りと決まっている。
 その間、妻は何をしているかというと、
 居間で友だちとのんきにワインを飲んでいたり、
 寝転がってテレビを見ていたりする。
 かと思うと、出勤前の夫にゴミ袋を持たせ、
 分別収集をわきまえない夫を妻がきびしく叱るCMもあった。
 すかさず、
 《環境にやさしく、夫にきびしい妻》
 というナレーションが流れる。
 思わず笑ってしまうが、妻の権柄づくな物言いに対して、一言も反論せず、
 ただ首うなだれているだけのしょぼくれ亭主の姿は、
 哀れさを通り越して情けなくなる。
 昔のCMの話ばかりで申しわけないが、
 近頃はイチローとシャラポワ以外は
 テレビを見ないようにしているので、
 最新のCMはとんとご無沙汰なのだ。
 これまた昔のCMだが、ホロ酔い気分の夫が、
 玄関先で背広を脱ぎ捨てながら
 ストリッパーまがいのバカ踊りをする
 ユニットバスのCMもあった。
 あんな父親のうすらみっともない姿を見れば、
 どんな出来損ないの子供だって、
 世の父親なんてお調子者のろくでなし野郎ばかりだ、
 と思うに決まっている。
 テレビ局や大手広告屋に尋ねたい。お前さんたちは、洗濯機のCMの中に、
 おやじと娘のパンツを分けて洗うシーンを入れることに、
 いったいどんな高邁なメッセージを込めたつもりなんだ?
 おやじを小バカにし、寄ってたかって愚弄することが、
 今風の進歩的という意味なのか?
 見るところ、進歩的なるものの実体は、
 単なる風俗への媚びではないか。
 総じて「進歩的文化人=ろくでなし」であるように、
 昔から、進歩的と称するものに、
 まともなものなどあったためしがない。
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