| 第111回海辺のバカ親たち
 夏になると、毎年わが家は海で数日を過ごす。伊豆半島の突端近くに、10年来定宿にしているホテルがある。
 どっちかというと
 ブルジョワが利用するような高級リゾートホテルで、
 我われのような貧乏人は実は場違いではあるのだが、
 日頃地味に暮らしているのだから、
 たまの休暇に少しばかり背伸びをしてもバチは当たるまいと、
 この時ばかりは分際を忘れ、大いに羽をのばすのである。
 ホテルの前のビーチは日本では珍しい白い砂浜で、右手には磯がある。
 で、スキンダイビングが好きな私たちは、
 波乗りと磯での素潜りを交互に楽しむのだ。
 ホテルは屋外プール付きで、
 そのプールを囲むように
 ビーチパラソルとデッキチェアーが配されている。
 そこには優雅に寝そべって読書にいそしむマダムもあれば、
 いぎたなく口を開け、
 すっかり白河夜船を決め込んでいるお父さんもいる。
 いずれにしろ、こんなバカ高いホテルを利用するくらいだから、
 大金持ちとはいわぬまでも、
 そこそこ小金を持った連中なのであろう。
 一見したところ、たしかに宿泊客は紳士淑女ばかりで、さぞかしお上品な人たちだろうと想像したものだが実は違った。
 小金は持っていても心貧しき人が多いのだ。
 そのことを象徴しているのが、
 プールサイドでの醜い場所取り合戦だ。
 ビーチパラソルとデッキチェアーは数に限りがある。
 で、その利用は早い者勝ちになるのだが、
 オープンする朝八時の一時間も前から、
 われ先に確保しようと、プールの入口には長い行列ができる。
 早朝から泳ぐわけではない。
 デッキチェアーにタオルやら持ち物を置き、
 とりあえず唾をつけておくのだ。
 終わるとさっさと部屋に戻り、もうひと眠りする。
 怖い女房のさしがねなのか、
 場所取り係はたいていお父さんの役回りだ。
 プールサイドの特等席からあぶれた者たちは、カンカン照りの芝生に追いやられ、みじめな思いをさせられる。
 が、一方では四つも五つもチェアーを独占している
 いけ図々しい家族もある。
 言いたくはないけれど、
 長期の休みともなれば、
 子供たちに公徳心やマナーを教え込む絶好の機会だろう。
 その好機に、自分さえよければ他人などどうでもいい、
 という利己心をせっせと子供に植え付けている。
 大あくびをしながら場所取りの行列に並ぶ小金持ちたちよ、
 女房子供のためというのだろうが、
 お前さんたちには人間としての誇りというものがないのか?
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