誰が日本をダメにした?
フリージャーナリストの嶋中労さんの「オトナとはかくあるべし論」

第74回
女と牛丼

牛丼屋で女の一人客はあまり見かけない。
天丼チェーンやカツ丼チェーンであれば、
男の客に混じって若い娘やおばさんも
陽気に箸を動かしているのだが、
どういうわけか牛丼屋にはそれがない。
数ある“どんぶり屋”の中で牛丼屋だけが、
何といおう、空気が重く沈み、ただならぬ気配を漂わせている。

《牛丼屋に於いては、元気は禁物である。
 陽気もいけない。店内の空気になじまない。
 意気消沈、これが牛丼屋に於ける客の基本姿勢である……
 (略)……意気消沈して、ガックリ肩を落として
 投げやりに食べると牛丼はおいしい。そのほうが格好もいい》

と、牛丼屋のあぶない雰囲気を
東海林さだおが『タコの丸かじり』の中で絶妙に伝えている。
天丼やカツ丼には、
人目をはばかり投げやりに食べるという陰気さはない。
なぜ牛丼だけが人の目を気にしながら、
つい今し方破産宣告したばかりなんですゥ、
といったようなしおたれた顔をして食べなくてはいけないのか。

BSE(牛海綿状脳症)のおかげで
米国産牛肉の輸入がストップし、
牛丼屋で牛丼が食べられなくなると聞くや、
あわててお店に駆け込んだ女たちがいる。
「生まれてから一度も牛丼を食べたことがないんです。
 このまま一生食べられなくなるかも知れないので、
 思い切って入ってみました」
お化け屋敷じゃあるまいし、
牛丼屋にまなじりを決して踏み込んでいってどうするのだ。

入りたいけど入れない。
男の私にも、その気持ちはよくわかる。
あんみつが食べたくても、
女護が島と化した汁粉屋に
男が単身乗り込んでいくのは、ほんとうに勇気が要る。
同様に、一心不乱にどんぶりめしをかっこんでいる
むさい男たちの輪の中に、
うら若き娘がひとり身を投じるのは、さぞ心細かろう。

牛丼には食べ方の流儀がある。
投げやりに食べるというのもその一つだが、
どんぶり鉢をむんずとつかみ、
口元に寄せるが早いか汁ごと箸で勢いよくかっこむ。
このお下品にかっ喰らうというところがミソで、
懐石料理を楚々としたためるというのとは趣を異にする。
牛丼屋に一人で入れる女性か否か――
この問いかけは、いろんな意味で
女性の性格を占うバロメーターになるような気がする。
血液型占いなどよりよほど気が利いている、
と私は勝手に思っているのだが……。


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