| 第59回女の道 (その二)
 もし生まれ変われるとしたら、「やっぱり女がいい」と女性の多くは答えるという。
 女に生まれれば、なるほど男よりは五年ほど長生きできる。
 しかしそれだけの話で、
 他にどんなメリットがあるのか、男にはわからない。
 男たちに同じ質問をしたら、
 おそらく九分九厘、やっぱり男に生まれたいと答えるだろう。
 女ほど長生きはできないが、
 それでも男のほうがずっといい。
 どこがいいのかって?
 女に言ってもわかるまい。
 とにかく男のほうがずっといい。
 世の中に生起するさまざまな問題は、そのほとんどがトレードオフtrade-offの関係にあるという。
 トレードオフとは
 「何かを得れば何かを失う」という関係のことだ。
 たとえば、物質的には豊かになったが、
 精神的には貧しくなってしまった、
 というような関係のことをいう。
 これを男女の関係に置き換えると、
 男が幸せなら女は不幸せ、という理屈になる。
 しかし、もう一度同じ性に生まれ変わりたい
 と男と女が共に口を揃えているくらいだから、
 この理屈は成り立たない。
 このことは逆にいうと、男には女の生きがいがわからず、
 女にも男の生きがいがわからない、ということを意味する。
 お互いに相手がまったく見えていないのだ。
 七たび生まれ変わっても女がいい、というくらいである。
 女でいることはよほど楽チンなのだろう。
 もしかすると男が決して知り得ない、
 女の幸せをしみじみ噛みしめられるような、
 何か大事な秘密を隠しもっているのかも知れぬ。
 女とは、それほどいいものなのか。
 21世紀は女の時代だという。経済がソフト化し、非製造業の領域もどんどん広がっていけば、
 女の活躍できる場が相対的に広がって、
 反対に男の力こぶを見せる場がますます狭められていく。
 「男が力こぶを見せたがる時は、
 戦争やら災害やらでろくなことがないじゃない!」
 と女たちは眉をひそめるが、それもたしかに一理ある。
 「男は損なものでありました。月のものがありませんもので……。
 あれでどれだけ損をしたことか」
 100年後に『続・忘れられた日本人』が書き継がれたとしたら、
 21世紀に生きた不甲斐ない男たちをこんなふうに記すに違いない。
 ああ、「男の道よ、なぜ険し……」
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