| 第57回痩せ女、大っきらい (その三)
 痩せ女は美しくない、という話をしている。自分の好みばかりを人に押しつけるな、
 とお叱りを受けそうだが、
 女性誌などのダイエット特集に踊らされ、
 生きている間のほとんどの時間とエネルギーを
 痩せるためだけに投じている愚かさに対して、
 「他にやることがないのか?」
 と素朴な疑問をぶつけて何がわるいのか。
 八頭身美人という言葉がある。ある世代の者なら伊藤絹子という名をすぐに思い出すはずだ。
 1953年のミス・ユニバース世界大会で
 みごと三位に入賞した純然たる大和撫子である。
 身長が164センチで、
 スリーサイズがB86、W65、H92とみごとなものだった。
 彼女にして体重は52キロというから、
 いかに現代女性が不健康でいびつな体形を
 理想としているかがわかる。
 伊藤絹子は「日本人ばなれ」したプロポーションと讃えられたが、
 今時の撫子どもは「人間ばなれ」したプロポーションの獲得に
 汲々としている。
 「痩せは美しい」という迷信がはびこると、とんでもない事件が起きる。
 インターネット上の掲示板に身体的特徴
 (「最近、太ったね」みたいな……)を中傷された
 小学六年の女子児童が、
 書き込みをしたとおぼしき同級生に
 カッターナイフで斬りつけ殺してしまうという事件である。
 これも「太っている=醜い」「痩せている=美しい」
 といった未熟で偏った情報に、
 子供たちが無防備にさらされてしまった結果だろう。
 ローマに三年暮らしたことのある友人のI夫人が言っていた。「イタリアの男たちは日本の若い女性たちのことを
 “板”ってバカにしてるの。
 観光で来る女性たちはみなベニヤ板みたいに痩せていて、
 胸もお尻も貧弱そのものだから。
 女性の魅力は出っぱるべきところが出っぱって
 初めて醸し出されるもので、
 蚊トンボみたいに痩せた女なんて女じゃない、というわけね。
 イタリア男は頭の中は空っぽだけど、
 肝心なところはさすがによく見てるわよ」。
 頭が空っぽな男ほど絶倫だというが、ベニヤ板を抱いても、さぞ味気ないことだろう。
 助平にかけては人後に落ちないイタリア男でさえ、
 日本の痩せ女たちには魅力がないと言っているのだ。
 彼らの眼にはよほど病的で不健康に映るのだろう。
 日本の若い“板”たちよ、この声なき声を何と聞く。
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