第9回
食うために行列か?
近頃、行列に並ぶのがはやっている。
遊園地の人気アトラクションやジャンボ宝くじの行列ではない。
ラーメンや寿司、点心・デザートの店などに並ぶ行列だ。
テレビや雑誌などでも
「行列のできる店」という古くて新しいテーマは
視聴率や販売部数に好影響を与えるらしく、
今やドル箱の定番メニューとなっている。
なぜ行列に並ぶのかというと、
「安くてうまいと評判の店だから」
というのが一番の理由だろう。
あとはテレビに出てたから、みんなが並んでるから、
死ぬほどヒマだから、といったところがせいぜいで、
旧ソ連名物の行列のように
「一切れの肉やパンを買うためのやむを得ざる行列」
などはひとつもない。
要するに飽食と平和ボケの果ての行列なのである。
日本人は行列好きだ。
質流れのブランド品バーゲンがあれば
女たちは大挙して押し寄せ、
家庭用テレビゲーム機の新作が出れば、
全国のおたく族が蝟集する。
めざす商品を手に入れるためには長蛇の列もなんのその、
羞恥心など掻き捨て、ひたすら辛抱強く順番を待つ。
近頃の若者は礼儀もわきまえず
こらえ性がないなどといわれているが、
ラーメンやゲーム機をゲットするための
礼節と耐性だけはちゃっかり備えている。
宝くじとか福袋の行列ならまだしも、
たかがラーメン一杯のために、
いいオトナが、金魚の糞みたいに、
行列のしっぽにぶら下がっている光景は、
どうみてもカッコ悪い。
並んでいる人間にしてみれば大きなお世話だろうが、
飢えて死ぬわけでもあるまいに、
たかが食い物のために行列に並ぶ行為そのものが、
なんとも浅ましく思えるのだ。
いくらラーメンが好きで、
有名ラーメン店を食べ歩くのが趣味だからといって、
食いものあさりをすることに対する
一片の羞じらいがあってもいいだろう。
私はラーメン大好き人間だが、
たとえ空腹であっても、行列のラーメン店には並ばない。
理由は簡単。
カッコ悪いからだ。
それにせっかちだから、そもそも待つこと自体ができない。
「美衣美食して助平のかぎりを尽くすのは亡国の兆である。
ローマはそれで亡びた」
とは山本夏彦翁の言葉である。
亡びたら亡びたで、
相変わらず物欲しげに行列に並んでいるとは思うのだが…。
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