第4回
不条理なぜわるい
長女は高校生の頃、
ケータイがほしいとしきりにせがんだことがある。
ケータイを持っていないのは学年中で二人だけで、
その一人が自分だという。
「原則禁止のはずだろ?
規則を守ってるだけでも立派だし名誉なことじゃないか」
「名誉なんか要らないからケータイがほしい。
メールもできないし。
このままじゃ、友だちがいなくなっちゃう」
と娘はここぞとばかりに食い下がる。
「友だち?
メールだけでつながってる友だちなんて友だちじゃない。
だいいち、たかだか数年間クラスを共有するだけの
友情なんて底が浅いに決まってるだろ。
自慢じゃないが、お父さんなんか
幼稚園から大学まで一人も友だちがいなかった。
友だちなんていないほうが気楽でいいんだ」
と応戦すれば、
「お父さんの言ってることはめっちゃくちゃ。
ワケわかんないし……」
呆れ果てた娘は今度は母親攻略に向かうが、
ケータイに関しては夫婦で難攻不落のタッグを組んでいる。
押せども引けども効果なし。
とうとう娘は、ケータイなしの高校生活を送るはめになった。
いや、正確にはルーズソックスも禁止したから、
娘は二重に肩身の狭い思いをしたことになる。
友だちなんか要らない――
娘にしてみたら、
むちゃくちゃな理屈を言うおやじに映るだろう。
その理不尽さに怒りさえこみ上げてこよう。
でもそれでいい。
理不尽大いにけっこう。
父親なんていつだって理不尽さの大安売りなのだから、
娘が反発しようが軽蔑しようが屁でもない。
毒にも薬にもならぬ
低俗なメールをやりとりすることで
つながっているような薄い友情など、
よどみに浮かぶ泡沫そのものではないか。
私はいつも口酸っぱく言っている。
決して人と群れるなと。
何がきらいといって、みんなケータイを持ってる、
みんなルーズソックスをはいてる、
みんなミニにしている、といった
「みんな○×してるから私も……」
という言い方ほどきらいなものはない。
「みんなが賛成したら、おまえだけでも反対しろ!」
と、ここでも私はつむじ曲がりの処世訓を植えつけようとするが、
娘は聞く耳を持たぬようす。
娘にきらわれてもいいのかって?
いや、娘はそんな理不尽なおやじを、
いつかきっと誇りに思ってくれるだろう。
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