第175回
『香港の挑戦』は日本経済人の国際性を問いかけている
『香港の挑戦』が出版されてから12年の年月がたった
平成5年に邱永漢ベスト・シリーズの一巻として
この本が再版されました。
この再版本のまえがきで邱さんは書いています。
「『香港の挑戦』を書いてから12年の歳月がたった。
もともと『香港の挑戦』は日本の上場株を買い占めた
一香港人に対する日本側の防戦の経緯を取り上げたものであるが、
当時の日本人は外国人と接触するチャンスがあまりなく
外国人株主の要求に対して一方的に
被害者意識ばかり働かせたから、
官民協力して外国人を払いのけることしか念頭になかった。
そのために絹のブラウスをつくっている小さな会社を
国の重要産業に指定して外国人の資本の買占めを排除し、
証券会社に指示して外人買いを受け付けないようにしたりした。
また株主総会をなるべく短時間に終了するように心がけ、
千株株主はもとよりのこと、最大の株主も、
それが外国人であるというだけの理由で、
経営に一切、嘴を入れさせないようにしてきたのである。
私は株の買い占めに同情するような立場にないけれども、
これから国際社会の重要メンバーとして活躍する立場にいる日本が
こんなことでは先が思いやられると思って、
あえて日本的対応の非を訴えるために『香港の挑戦』を書いた。
その後、商法も改正になり、零細株主の要求にも
耳を傾ける株主総会が実現したかに見えたが、
あれこれやってみると、やはり社外株主から突っ込まれるのは
不都合だと見えて、またもとの最短時間で終了する株主総会に
逆戻りしつつあるきょうこの頃である。
ただし、その一方で日本の経済力が広く
世界中から認められるようになったし、
日本からの海外投資も数々の失敗をくりかえしながらも、
次第に定着している。
バブルのさなかで海外投資の失敗をかえりみて、
私の失敗談を併せ読んでいただければ、
この次ももう一度やりなおす時の参考にはなるだろう。
またソ連やアメリカのこの12年の軍事大国としての
権威失墜を見たら、軍事力を背景としないで
世界の一等国にのしあがった日本の存在価値を
改めて珍重する気になるのではないか」
(ベスト・シリーズ版『香港の挑戦』まえがき。平成5年)
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