第157回
『女の国籍』は執筆までに20年もかかりました
『女の国籍』の執筆をはじめた時から
10年ばかりたったところで、邱さんは執筆に至るまでの
裏話めいたことを書きました。
「私は明治、大正、昭和を通じて半世紀のアジアの歴史を
一人の女性の有為転変の生涯に託し描きたいという願望を
長い間抱き続けてきた。
そういう問題意識を持っていると、本を読んでいて、
参考になるような記述にぶつかると、
本にしるしをつけることもあるし、
その本を買ってきて書棚の特定のコーナーにキープしておく。
また神保町や台北の古本屋を歩いていて、
戦前から戦中にかけての上海や北京や
重慶のことを書いた本にぶつかると、
『へーえ。こんな本をお読みになるのですか?』と
私の秘書がいぶかるような本を買って帰ったりする。
断片的なそういう知識や構想が
私の頭の中でだんだん形になって
熟成しかかったところで、突然、執筆がはじまる。
そうなるまでに5年かかるのか、10年かかるのか、
それとも遂に陽の目を見ないで終わってしまうのか、
私にもわからない。
『女の国籍』の場合は書くまでに
なんと20年もかかってしまった。
この小説は、日清戦争のあと、
日本の領有に帰した台湾で
はじめて文官総督になった田健次郎が
内台融和を図るために、
京都の貧乏華族の娘を台湾の名家の長男に
娶せるところからはじまる。
政略結婚のヒロインに選ばれた華子という女性が、
台湾を振り出しに、中国人の間で暮らし、
子供の教育のために日本内地に戻る。
やがて離婚をして大連に渡って、
関東軍のでっち上げた満州国の建国にかかわり、
北京、上海と移動して、
最後に上海で終戦を迎えるという
変化の多いストーリーによって構成されている。」
(「考えたらすぐ実行する癖をつける」
『金儲け発想の原点』に収録)
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