第147回
次の活動舞台を指南する『お金も頼りにならない』
『何をたよりに生きようか』という
頼りなげなタイトルの本が出版されたのが
昭和41年のことでしたが、
その10年後の昭和51年に
同じように頼りなげなタイトルの
『お金も頼りにならない』という本が出版されました。
『週刊アサヒ芸能』の昭和50年の春から暮にかけて
連載された文章に、その後の情勢の変化をふまえて、
構成がたてなおされかつ加筆されたものです。
「まえがき」の代わりに
「古い土俵にこだわるな」と題して邱さんは書いています。
「石油に端を発した世界的な不況という
表面的な現象にとらわれて、
国際競争力を失いつつある日本経済の体質が
見失われている。
日本にとって一番問題なことは
資源の不足でもなければ、公害でもない。
実は、原材料を輸入して再輸出することによって
生きてきた国が、あまりに加工賃を上げすぎたために、
後進国の追い上げにあっていることなのである」
そして日本が辿るであろう道を次のように予言しています。
「国内的なコスト高と消費者運動に邪魔立てされれば、
国内における設備投資意欲は容易に恢復しないから、
その分だけ『企業の大移動』となって現れる。
生産活動の檜舞台は海外へ移り、国内はその販売先、
もしくは消費地という形に縮小されてしまいます」
そして「金儲けの舞台が海外にでるとすれば、
投資の対象も海外へ移っていかざるを得ない」とし、
「出稼ぎが日本経済の本命になる」と題して
かなりのページで台湾の株式市場を紹介しています。
そして邱さんは「『お金も頼りにならない』とすれば、
あとは『時世の変化を見定める眼』ということになる。
この意味で舞台は広がったのであって狭まったのではない。
十一尺の土俵になれた力士が十三尺に拡がり、
さらに十五尺に拡がると、勝手が違って戸惑ってしまう。
しかし、十五尺の土俵をたくみにこなす新しい横綱が
そのうちに誕生することは確かである。
『昔のこことを愚痴るな、十一尺の土俵にこだわるなというのが
私の皆さんに対する忠告である』」と書いています。
本のタイトルは頼りなげですが、
ずいぶん力強い内容のものになっています。
|