第112回
”独立のすすめ”第一号『サラリーマン出門』
昭和44年から45年にかけ邱さんはサラリーマンをやめて、
独立しようと考えている人のために日本経済新聞の家庭欄に
「サラリーマン出門」を連載し、同社から出版しました。
「入門書ばかりが多い中に、一冊くらい
出門の本があってもよいと思ったのである。
そう思っていたら、寺山修司さんも
『家出のすすめ』という本を書いた。
ただし、この本の読者は田舎の高校生が多く、
本を読んで家出をする者が増えたので、
寺山さんはわけのわからない世間の親たちから
しきりに抗議を申し込まれたそうである。
『家出のすすめ』を読んで
本当に家出を決行するものが現れたとすれば、
これは寺山さんの筆に説得力があったからか、
もしくは高校生たちの家に家出をしたくなるような
空虚さがあったからか、のどちらかであって、
世間の親たる者大いに反省すべきなのである。(略)
一方『サラリーマン出門』を読んで
本当に会社をやめて独立した人は、
多分、その数において『家出のすすめ』に負けないと思うが、
この方は年齢的にも25歳から上だから、
親からねじりこまられることはない。
それに会社を辞めるかどうかは、
一身上の一大事であるばかりでなく、
家計の浮沈を左右する大事件であるから、
家族のある人なら、まず必ず奥さんと相談する。
奥さんの理解と協力なくしてサラリーマンが事業をおこし、
それに成功することは不可能だからである。
つまりきっかけになったりすることはあっても、
会社をやめるについては事前協議が行われ、
その最終責任は自分たちにあると考えられるので、
私は成功した人から感謝の手紙をもらうことはあっても、
詰問と非難の手紙を頂戴しないですんでいるのである」
(『悪い世の中に生きる知恵』)
なおこの作品の系譜に連なるものとしてのちに
『途中下車でも生きられる』が書かれています。
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