Qさんの本を読むのが何よりスキ
という戸田敦也さんがQライブラリーのガイド役をつとめます

第103回
納税者の立場に立った「ゼイキン報告」

昭和41年1月1日から9月まで邱さんは
「日本経済新聞」に「ゼイキン報告」を連載することになります。
そしてこの年の11月に日経新書から同名の本を出版しました。
「私が税金に注目し、それを著作のテーマとして
とり上げる気を起こしたのは、
私自身が少しばかり実業界とかかわりがあるようになり、
現実に税金に苦しむようになったからであるが、
ちょうど昭和39年の不況を契機として、
日本の経営者たちが税金の重さを痛感する時期にきていると
判断したからでもあった。
ついこの間まで小説を書いていた人が、
株の話に筆を染めたかと思ったら、
今度は税金の話だから、驚いた人もあったに違いない。

しかし、もともと私は俗界のことに興味をもっている方だし、
人々が関心を抱くことは全部文筆の対象になると信じていたので、
小説家は小説を書き、経済評論家は経済の評論をするものだ
という既成概念には必ずしもくみしなかった。
私の『ゼイキン報告』」は、大蔵省国税庁のPRでもなければ、
税理士の専門的な税務知識でもなく、
一納税者の立場からする
いわば『生活の知恵』みたいなものであった」
(『金銭処世学』)

「だから、たとえば、贈与税についても、
当時は免税点が40万円だったと思うが、
毎年、40万円ずつ子供の名義に移せばよいと、書いてあった。
それはそれで間違いはないのだが、
その場合、実際に40万円移した証拠を
どこかに残しておかなければならない。
子供名義で郵便貯金通帳とか銀行の普通口座をつくり、
それをジッと持っておかねばならず、
仮にその中から株を買うとしたら、
同じように子供の名義で株屋さんに口座をつくり、
また子供の名義で売買をし、
その証拠もはっきり記録しておく必要がある。
こういう記帳の仕方は、やってやれないことではないが、
私たちの実生活はそれほど几帳面にはできていない。
それならいっそ40万円に50万円プラスをして贈与をし、
有税分に対して10%の贈与税をとるなら
5万円の贈与税を払って、
その記録を税務署に残しておいた方がいい、と私は提案した」
(同上)

この提案は「『1万円以下の配当金なら税金がかかりませんよ』と
教えられてその通りにしておいたところ、税務署に呼び出され、
とっちめられ」(同上)、そのとき贈与税を払って、
あとくされのないように処理した体験にもとづくものです。

「そういう体験をしているので
『税金は回避しようと思うな、思えば負けよ』と
歌謡曲のセリフのようなことを言い、
『贈与税は少しは払っておいた方がトクですよ』と
本の中で書いた。
私のような発想は、それまでの税金の本には
全く見られなかったから、よほど新鮮さがあったとみえ、
プロの税理士や国税庁の人たちにも読まれ、
その後に出た税金の解説書の中には、
私の発想にならった実例をあげる人もあるようになった」

この本を執筆して邱さんはたちまち税法の権威者として
扱われるようになりました。
(同上)


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2002年12月8日(日)

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