第58回
小説集「惜別亭」と小説「誰が家の花」が発刊されました
小説集『刺竹』に続いて、小説集「惜別亭」が昭和33年11月に
小説「誰が家の花」が昭和34年2月に出版されました。
小説集「惜別亭」には「東洋航路」、「惜別亭」、
「南京裏通り」、「海の口紅」、「傘の中の女」、
「マネキン少女」、「香港に死す」の七作品が収録されました。
「東洋航路」は眉目秀麗の日本の美少年に英国人の老船長が恋し、
陶酔の中で死んでいく話です。
「惜別亭」は「シンガポールで、死人が出ると、
家が貸しにくくなるので、貧乏人は死にそうになると、
家主から追いたてをくらう。
そういう貧乏人が死ぬための家をつくった人がいて
結構繁盛しているという記事を香港の新聞で読み、
それがヒントになってできあがった小説」
(『邱永漢自選集第3・オトコをやめる話』)です。
「南京裏通り」は横浜の中華街でバーを経営している
シンガポール生まれの女が、
戦争中に同棲していた日本兵のあとを追って
北海道の旭川に着き、男の納屋に住みついて、
炭焼きと養豚をやって金を稼ぎ、金を持って男のもとを去り、
南京街の裏通りのバーにつとめているうちに、
バーの経営者から月賦でバーを買いとる話です。
「海の口紅」は台湾のはずれにある島に住む少女の身に
起こった悲しい物語です。
「傘の中の女」は「広東地方に伝わる民話から
ヒントを得たもので、女の幽霊が破れ傘にのりうつって、
捨てられた男に復讐をしに行く話」(同上)です。
「マネキン少女」は日本を訪れた香港の宝石商人に愛される
日本女性の話で、「香港に死す」は香港の青年から誘われて
香港に移り、かの地で謎を秘めて死ぬ日本人女性の話です。
ここに収録されている作品も香港、シンガポール、中国大陸、日本と
アジアの各地が舞台になっています。
続いて翌昭和34年に発刊された小説「誰が家の花」は
婦人画報に連載され、香港から日本に留学した青年と
日本人女性との交流が描かれています。
邱さんはこの作品に対しては「どう見ても下手糞な恋愛小説」
(『オトコをやめる話』あとがき)と辛い点数をつけています。
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