Qさんの本を読むのが何よりスキ
という戸田敦也さんがQライブラリーのガイド役をつとめます

第46回
丸谷才一さんが戦後の食べ物随筆の代表作と折り紙をつけました

龍星閣社では「食は廣州に在り」を次のようにPRしました。
「『食在広州』とは世界の美味は中国にあり、中国の味覚は
広州にあるということで、さしずめ『大阪の食い倒れ』とで
も訳されよう。中国の文化をシナ料理の豊富な知識と独自の
ユーモアに織りまぜ、この随筆ほど天下の食いしん坊を
堪能させながら、しかもそのまま文学になっている著がない
と言われている」

それから18年ばかりたった頃、小説家の丸谷才一さんが
『文藝春秋』誌での連載「食通ぶったくり」でこの本を
推奨しました。
「邱永漢氏の『食は広州に在り』は名著である。
戦後の日本で食べ物のことを書いた本を3冊選ぶとすれば、
これと檀一雄氏の『檀流クッキング』と
吉田健一氏の新著『私の食物誌』ということになろう」と。

その直後に中公文庫版が出版され、
丸谷才一さんが解説を寄稿しました。
「邱永漢は亡国の民である。彼の国籍が当時どうなっていたかは
私は知らないけれども、手続きの上での些々たることはともかく、
実際には、当時そういう立場の人間として東京で
文章を売っていたといってよかろう。
あるいはさらに、旧制台北高校に入学したときから、
そのもっと前から、つまりごく幼いうちから、
そういう心構えで生きていたと見るほうが正しいかもしれない。
しかも彼には、国は何度も亡び、王朝は何度も改まるという、
そしてそれにもかかわらず個人は悠々として生きていくという
中国何千年の伝統が身についていた。
そのような彼にとって、たかが一度の戦争に敗れ、
あわてふためいている当時の日本人の暮らし方は、
まことにみっともないのに見えたに相違ない。
国が亡んだとて、そんなことくらい何でもないではないか。
大事なのは個人がこの一回限りの生を楽しむことで、
それにくらべれば植民地がなくなろうと、
軍隊が消え失せようと、財閥が解体されようと、
どうでもいい話ではないか、
彼はそういう趣旨の手紙を、亡国の民の先輩として、
われわれ後輩に書きつづけたのである。」
(丸谷才一『食は広州に在り』文庫版解説。)
こういう解説を受け、筆者の邱さんは
「小説家というのは、一種独特の切り口を見せる深層心理学者だなあ、
と感心した」(『食は広州に在り』Qブックス版、あとがき)と
書いています。
この丸谷才一さんの推奨によって、この本がより多くの人に
読まれるようになり、ロングセラー作品になりました。
『食は広州に在り』は、今日、中公文庫から発行されています。
またこの文庫から電子書籍としても出版されています。


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2002年10月12日(土)

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