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13. バカンス

私はこの料理の世界に入ってから長期休暇というものを諦めてきました。
ゴールデンウィークや夏のお盆休み、そしてお正月休み。
実際イタリアへ行くまでは有りませんでしたし、
みんなが遊ぶ時期に働く仕事だと認識していました。
別にそれが苦痛ではありませんでしたし、
いざ一週間や十日間休みがあっても
有効に使い充実した休みにすることが出来なかったと思います。
有り余るお金があったとしても上手な時間の使い方を知らなければ、
きっと有意義に過ごすことは出来ないでしょう。
私が過ごしたイタリア生活で、このバカンスの使い方を振り返ってみます。

イタリアにも長期休暇がもちろんあり、それはレストラン業界にも存在します。
一般的に8月と2月の年2回、バカンスが設けられています。
それは店によって多少の違いはありますが
私が居たレストランでは8月と1月の2ヶ月間、バカンスに入ります。
その間何をしているかというと、
シェフはフランスやドイツに勉強を兼ねて旅行に行ったり、
従業員はオランダやベルギーに遊びに行ったりと様々です。
そして修行中の日本人はその期間日本に一時帰国したり、
イタリア国内を旅行したりしています。

でも私はせっかく滞在許可証があるのに
その期間帰国するのは勿体ないような気が・・・。
そこで私は自分の弱い部分を強化しようと思い、
当時デザートに関して全く自信が無かったので
シェフの友人のパスティッチェリア(お菓子屋さん)でお菓子職人の方を紹介して頂き、
給料は要らないので勉強させていただけるように御願いしてもらい、
お菓子職人の方も快く引き受けてくださって、
休みの一ヶ月間お菓子屋さんで修行出来る事になりました。
そのお菓子屋さんは、ブラという町にあり私が住んでいた町から
バスで30分、電車に乗り換えて30分ほどの場所にあり
片道一時間以上はかかる所でした。
お菓子屋さんといってもカフェもやっていたので朝が早く、
ブリオッシュやパンも焼いていたので早朝5時出勤。
それには流石に間に合わないので始発のバス
そしてまだ日も出ていない電車に揺られて通いました。

そこで得たデザートに関する知識と技術は
私の今までのデザートに対しての考え方そのものを大きく変え、
レストランにおけるデザートの重要性を再確認でき、
自分にとって最も有効で充実した価値ある時間の使い方であったと満足しています。

1月の真冬で雪が積もる中、日も出ていない真っ暗な闇の中を一人、
電車とバスに揺られて通った日々を思い出すと、
情熱と行動力は人並み以上のものが有ったと自負しています。


2007年8月22日 <<前へ  次へ>>