| 私は今焼肉屋展開の次なる一歩、5号店として鉄板焼の店の出店を考えています。
 そのために先日台湾に行き台湾の鉄板焼を2ヵ所見た後、日本に入りました。
 日本に入ったその日、まずは邱先生に挨拶に行きました。 台湾の鉄板焼のお肉がいまいちだったこと、しかし、いくつかの気付きがあったことなでを報告すると、
 先生は「明日、時間あるの?」とさりげなく聞かれました。
 鉄板焼を振舞っていただけることになりました。 場所は表参道で、店は「うかい亭」日本でも最高レベルといってよい店だと思います。
 さすがに日本の料理と料理人は、鉄板焼であってもその精神を忘れずに
 細やかな仕事をしてくれました。
 料理の中身はさておき(もちろんおいしかったですよ)、私はシェフと我々の間の空気がなごむのをまって
 少しづついろいろな質問を始めました。
 実は、ここ数カ月鉄板焼を考えるにあたり私の一番大きな疑問だったのは
 「鉄板で焼く必然性のある食材があるのだろうか?」「鉄板で焼くと他の調理方法よりおいしくなるものは何か?」
 ということでした。 そして、調理も後半に入り、美しいサシがはいったフィレステーキを焼く段階に入って、
 私は聞きました。
 「他の調理法もあるなかで鉄板で焼くことの意味は何ですか?」と。 その調理人は、一瞬戸惑いの表情を見せた後、十分にトレーニングされた笑顔で私にこう答えました。
 「鉄板焼の魅力は人の五感における四感にアピールすることです。つまり、見る、聞く、嗅ぐ、味わう。
 美しい鉄板と美しい食材それに職人の演出で見る。
 熱い鉄板に食材が触れる時の音で聴く。
 フワッとかおる油の香り、よく焦がされたにんにくの香りで嗅ぐ。
 そして仕上がった完成品で味わう。
 こういった要素の組み合わせが鉄板の魅了だと思います。」
 5年間を厨房で過ごし、半年の店内トレーニングを経て顧客の前にたった、
 その職人から調理法うんぬんではなく、
 演出としての鉄板焼の豊さを語られた時、
 私の中で、鉄板焼の自由度がうんとひろがりました。
 その後、青山の美しい夜景と邱先生の話をデザートにロイヤルコペンハーゲンの器で紅茶をいただきました。
 そのあと持ってこられた計算書に、
 はっきりと85,000円と刻まれていました。
 85,000円の味は私にとってとても味わい深いものとなりました。 |