料金の支払いを強硬に要求してきた
内装会社社長とのランチの出ばなは、
お互いに緊張した趣でしたが、
私が少し譲歩の姿勢をみせると、
向こうも「いやこちらも少し強引すぎた悪かった。」
という話になり、最後はお茶で乾杯をし、
和解にこぎつけたのでした。
問題はその後の話でした。
すっかりと打ち解けた気分になったその社長は、
いろいろなことを私に話しだしました。
中でも、私が違和感を感じたのは、彼が何度も
「おたくの社員は経験が豊富だ」
「頭が良すぎる」
という言葉を繰り返し、
何か私の中に気持ち悪さを残したのでした。
店を出て歩き出して数分、
「うちの社員が頭が良すぎるというのはどういう意味ですか?」
と突然聞き、彼の反応を見ました。
すると彼は、
「いやあなたが特に大事にしている人材のようだから
遠慮して言わなかったが・・・」
「おたくの社員の一人が、時に酒やタバコを要求したり・・・。」
ということを私につぶやきました。
私は、努めて表情を変えないように
「ああ、そのことですか。ええ気づいていましたよ、わたしも。」
と少しハッタリをかますと、彼はそれならと遠慮なく
「つい先日の2号店の入札の時は、
他社の情報を漏らす代わりに、マージンを要求してきた。」
ということまでを告白し、
これまでの経緯を具体的に話しはじめました。
その日から1週間、私は苦しみに苦しみました。
・これまで一緒に戦ってきたと思っていた仲間
・結果として実害は発生しなかったが、
経営上は絶対に処理しなければならない
・どう言えばいいのか?
・社内に公開すべきかそれともこっそりクビを切るべきか
・クビを切った後、逆切れをされて危ない目にあわないか
等々
頭の中に多くの疑問が沸いては消え、
沸いては消えていくのでした。
同時に私は弁護士に相談しながら、
会社にとって100%安全な段取りを検討し、
必要な書類や証拠をたった一人で
社員に気づかれないように集めました。
そして、とある水曜日の夜、
その人間に少し話があるといい、
他の社員が帰ったのを確認してから、
私の部屋に招き入れました。
黙って、証拠書類と弁護士の意見書を見せると、
それまで笑っていた顔が急に変わりました。
顔が青ざめるという状況をまさに目の当たりにしました。
「これまで君がやってくれた仕事には感謝している。」
「しかし、私は今回のことを知ってしまった以上、
経営者として放置できない。」
「ついては、どうすべきか、君のほうで判断して欲しい。」
君のほうで判断して欲しいというのは、
私なりに中国人の面子を考慮した最大限の表現でした。
一方的に解雇されたのではなく、
形の上では自分で選択したことにしてやるのが、
私の最後の愛情のつもりでした。
「止めるべきだと思います。
やめるならいつごろがいいでしょうか?」
今度は向こうから聞いてきました。
「今日限りが適当だとわたしは思う。」
と伝えると
「いまやっている2号店の完成だけは目にしたい。」
といいましたが、私は首を横に振るのみでした。
最後に私は、その人間が反撃に出ることができないように
事前に準備しておいた最後のセリフを伝え
会社と自分の身の安全を確保しました。
部屋を出て行った後、
私はまさに空虚でした。
この一週間たった一人でこの問題を考え、
準備してきた疲れと、大きな喪失感に襲われたのでした。
「疲れた・・・」
次の日、社内の管理層のみを集めた緊急ミーティングを行い
その人間の退職を通知しました。
わたしは、彼らだけに、証拠文書を見せました。
そして次のように言ったのでした。
「どうやら私をあまりに過小評価していたようです。」
「私はこれまでにも言ってきたように、不正が大嫌いです。」
一連の処理が終わるとわが社の弁護士から、
「近年でもっともうまい不正社員の解雇の仕方ですね。」
となんとも嬉しくない賛辞をもらい
一連の事件に終止符を打ちました。
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