第1463回
「農民工」って呼ぶな!

農民工(のんみんごん)。

彼らは中国内陸部の農村から
北京や上海など沿岸部の大都市に来て、
建築現場や工場で肉体労働をしている出稼ぎ労働者です。
彼らの存在がなかったら中国がこれだけの
経済発展を遂げることはなかったであろうことを考えると、
彼らは中国の高度経済成長の立役者と言えます。

しかし、沿岸部の大都市の市民の中には、
田舎から来た農民工を蔑視する人も少なくありません。
このため、「農民工」という言葉は、
いつのまにか差別的なニュアンスを持つ言葉と
なってしまいました。

こうした状況を受けて、
先日、沿海部に大量の農民工を送り出している
河南省の盧展工党委書記は「農民だけがなぜ永遠に
特定のレッテルを貼られるのか?」と主張。
これに対し、大量の農民工を受けて入れている
広東省の汪洋党委書記は
「地元住民との融合促進のため、
「農民工」の呼称をやめることも検討する」としました。

では、これからは何と呼べば良いのか?

先月、湖南省の農民工たちと対話をした温家宝首相は
彼らを「産業労働者の主力軍」と呼びました。
また、地域によっては既に
「建設者」、「新市民」、「新型契約労働者」などの呼び方で
呼んでいるところもあるようです。

しかし、この問題の本質は呼称ではなく
戸籍制度にある、と指摘する人もいます。

農民工は都市に出稼ぎに来ても、
戸籍が農村戸籍のままなので、
都市での医療や子供の教育、年金などの
公共サービスが十分に受けられません。
このため、中国紙・21世紀経済報道はその社説で
「戸籍制度改革などを通じて、
都市でも都市住民と同等の公共サービスを
提供されるべきだ」と主張しました。

ただ、臨時雇いで低所得であるため、
社会保険料をほとんど払わない農民が、
都市に大量に流入して
都市住民と同じ社会保障を受けるようになれば、
都市の社会保障制度が破綻することは
火を見るよりも明らかです。

農村から都市に集団就職して
日本の高度経済成長期を支えた、
いわゆる「金の卵」たちの多くは、
その後そのまま都市に定住しましたが、
社会保障の面で混乱が起きなかったのは、
日本は農村でも都市でも
社会保障制度が一律だったからです。

中国が戸籍制度改革を行って
農村戸籍と都市戸籍を完全に撤廃するためには、
まずは農村経済をもっともっと底上げして、
日本のように農村でも都市でも同じ社会保障を
受けられるようにする必要があるのではないかと思います。





←前回記事へ

2012年2月17日(金)

次回記事へ→
過去記事へ
ホーム
最新記事へ