第1461回
どろぼうに入られて違法蓄財発覚事件
白培中(ばいぺいちょん)、48歳。
私が彼に始めて会ったのは、
丸紅の北京支店で石炭の仕事をしていた1990年代後半。
当時の彼は山西省の弱小国営炭鉱・霍州鉱務局に
数人いた副局長のうちの一人に過ぎませんでした。
それが、その後山西省の
石炭産業再編の波に乗ってメキメキと頭角を現し、
2006年には山西省忻州市の副市長、
2008年には山西省最大の国有企業にして
中国最大の原料炭企業・山西焦煤集団のトップ、
董事長兼党委書記の座にまで上り詰めました。
そして最近では、次の山西省副省長の最有力候補、
と言われるまでになっていたのです。
順風満帆、前途洋々に見えた彼の人生が暗転したきっかけは、
自宅にどろぼうが入ったことでした。
昨年11月、白氏の自宅にどろぼうが入り、
白氏の妻が現金300万元(3,600万円)を奪われたと
警察に通報しました。
警察は捜査の結果、容疑者2人を逮捕しましたが、
取り調べの過程で、白氏の自宅から盗まれたのは
人民元の現金だけではなく、
米ドルなどの外貨、金の延べ棒、宝飾品など
5,000万元(6億円)相当に上ることが発覚しました。
いくら山西省最大の国有企業のトップでも、
6億円もの資産を持っているというのは
どう考えても汚職による違法蓄財であろう、ということで、
同氏は山西焦煤集団のトップの座を解任され、
現在、中国共産党規律検査委員会の
取り調べを受けているのだそうです。
同氏にどういった罰が下されるかは今後の捜査次第ですが、
汚職の事実が明らかになれば、違法蓄財の金額から言って
死刑は免れないのではないかと思います。
逮捕されたどろぼうは、
白氏の自宅がある高級住宅街の警備員。
「汚職で蓄えた財宝を奪っても、
警察には届けないだろうと思った」と供述しているそうです。
どう考えてもどろぼう氏の読みは正しいのですが、
白氏の妻が警察に通報してしまう行為からは、
共産党の腐敗幹部の汚職に対する罪の意識の薄さを感じます。
「ただいまー」
「お帰りなさい。あなた大変よ。昼間うちにどろぼうが入ったの」
「なに!何が盗まれた!」
「現金も、金の延べ棒も、宝石も何もかもよ!
すぐに警察に通報したわ」
「えー、警察に通報したのか!」
「大丈夫よ。被害額は一ケタ少なめに言っておいたから...」
「そういう問題じゃないよ!オレ、死刑になっちゃうよ!」
「えー!」
事件当日の白氏夫婦のやり取りが目に浮かぶようです。
今回の事件ではどろぼうによって
違法蓄財が発覚してしまいましたが、
もし、発覚しなかったとしても
白氏が心安らかに幸せな人生を送ることが
できたかどうかは分かりません。
エラくなって6億円のワイロをもらい、
いつバレるか、バレたら死刑だとビクビクしながら暮らすより、
弱小国営炭鉱の副局長のまま、
毎日、現場で石炭にまみれて
真っ黒になりながら汗をかいていたほうが、
白氏の人生は幸せだったのではないか。
当時の白氏の顔を思い出して、
私はそんなことを思いました。
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