第1415回
中国への工場移転は自殺行為か?

東日本大震災以降の電力不足と急激な円高により、
日本では多くの製造業企業が海外移転を余儀なくされ、
産業の空洞化が懸念されている、と聞いています。

日本ではもうどうにもやっていけないので、
これから海外に、と考える製造業企業もあると思いますが、
中国を移転先にするのはおススメしません。
なぜなら、苦労して工場を中国に移転しても、
問題が解決するどころか、
日本にいたときよりも更に大きな問題に
直面する可能性もあるからです。

まず、中国は何年も前からずっと電力不足が続いています。
先日、中国工業情報化省が公表した
2011年夏季工業経済運営報告によれば、
今年の夏の全国の電力不足は最大で
3,000万キロワットに達したとのことです。

中国では民生用の電力は優先的に供給されますので、
国民全員が節電に努めている日本と違って、
中国で生活していても電力不足であることはあまり感じません。
しかし、そのしわ寄せは全て工業に押し付けられますので、
工場では有無を言わさぬ計画停電で
生産のストップを余儀なくされる場合もあるようです。

また、円ほどではありませんが、
人民元も対米ドルでどんどん高くなっており、
この1年で5%以上も元高になっています。
これは中国の工場から諸外国に
輸出をしようとしている製造業企業にとっては、
非常に厳しい状態です。

様々なインフレ対策にも関わらず、
中国のCPI(消費者物価指数)上昇率は
前年同月比6%台で高止まりしています。
このため、輸出企業の保護より
インフレ対策を優先する中国政府が、
今後、元高の速度を速める可能性も大いにあり、
中国の輸出企業にとっては
更に厳しい環境になることは確実です。

そして、上記に加えて、
中国では「安い、安い」と言われてきた人件費が、
ものすごい勢いで上がっています。

ここ数年、北京市では最低賃金が毎年20%ずつ上昇しており、
市内の製造業企業に大きな影響を与えています。
当社も40名の引越作業員を雇用していますが、
人件費の上昇は本当に頭が痛い問題です。

中国政府も第12次5カ年計画(2011-2015年)の期間中に、
最低賃金を倍増させるという方針を発表しており、
中国の人件費上昇は今後も止まらない見込みです。

「世界の工場」から「世界のマーケット」へ
脱皮しようとしている中国。
その国に工場を移転することは、
時代の流れに逆らった自殺行為とも言えます。

もちろん、ケースによっては中国に工場を移転しても
十分にやっていける製造業企業もあると思います。
ただ、そうだとしても工場移転に当たっては、
中国が今後、どちらの方向に向かおうとしているのか、
という将来の予測を最も厳しい数字で考慮に入れて、
慎重に検討をされることをおススメします。


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2011年10月31日(月)

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