第1390回
「絶対に人を騙さない」の価値

中国には国有企業の社員に限らず、
騙しやすい日本人のおカネを狙って
手ぐすねを引いて待っている
アクティヴな詐欺師がたくさんいます。
また、本人は騙すつもりではないのに、
日本人の基準からすると
結果的に騙したことになっている、という
パッシブな詐欺師は更にたくさんいます。

邱先生の著書にも
「騙してもまだまだ騙せる日本人」(知恵の森文庫)
という題名の本がありますが、
悪意の有無は別として、
中国の詐欺師たちに騙されて
ほうほうの体で日本に逃げ帰った日本人は
たくさんいます。

私も中国に来て、
丸紅の北京支店で働いた5年半の間に、
そうした例をたくさん見聞きしてきました。

日本語を話せる旅行ガイドと
中国で新規事業を立ち上げることが決まったが、
資本金を預けたとたんに
そのガイドと連絡がつかなくなってしまった人。
日本の中華料理屋で意気投合した中国人の勧めで、
彼の故郷の地方都市で会社を設立したが、
全く仕事ができない彼の一族郎党を社員にさせられて、
資本金を全て食いつぶされてしまった人。
中国人ビジネスパートナーと事業を始めたが、
事業が軌道に乗り始めたとたんに
会社を追い出されてしまった人、などなど。

また、これは中国人に限った話ではありません。
中国には結構、過去の経歴がよく分からないような
怪しい日本人も多く、
そうした日本人に他の日本人がおカネを騙し取られる、
というケースも耳にしていました。

このため、私は会社を辞めて独立するに当たって、
「絶対に人を騙さない」ことを売りにして、
中国に事務所のない日本の中小企業に
駐在員事務所代行サービスを提供することを思いつきました。
これは、中国では「絶対に人を騙さない」というだけでも、
非常に大きな価値があることを強く感じていたからです。

しかし、中国のことを全く知らない日本の中小企業にとって、
「絶対に人を騙さない」などということは当たり前のことであり、
結局は何の価値も見出してもらえませんでした。
挙句の果てに、ただでさえ仕事も収入もなくて困っているのに、
逆に日本の中小企業におカネを騙し取られる、
という事件まで起きました。

その後、海外引越の仕事を始めてからは、
ヤマトロジスティクスさん、日本企業のお客様、
ビジネスパートナーの劉さん、
当社従業員のみなさんなどなど、
「絶対に人を騙さない」方々のお陰で、
なんとか会社も10年目を迎えることができました。
これが騙した騙されたなどという
すったもんだを繰り返していたら、
とてもではないですが会社をここまでもたせることは
できなかったのではないかと思います。

中国に来て15年。
私が学んだのは、
当たり前のことではありますが、
中国人でも日本人でも、
騙す人は騙すし、騙さない人は騙さない、
そして、騙す人と騙さない人を見分けることは、
事業の存続に非常に大きな影響を及ぼす、
ということでした。


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2011年9月2日(金)

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