第1388回
中国高速鉄道事故で再考する日本の活路
先月、中国浙江省温州市で発生した高速鉄道の追突事故は、
40人を超える死者を出す大惨事となりました。
事故の犠牲者のみなさんには、
心よりのお悔やみを申し上げます。
中国政府が国威発揚のために、
中国共産党建党90周年に合わせて
北京〜上海高速鉄道を開業させ、
高速鉄道技術を独自開発技術として
特許申請した矢先の大事故でしたので、
中国の人たちが受けたショックは
非常に大きいものがありました。
事故後、中国各地の高速鉄道では空席が目立つようになり、
安全性が確実になるまでは
従来の飛行機や在来線で移動をする人が増えそうです。
今回の事故について、
日本では証拠隠滅、情報統制を図る中国政府と怒る国民、
という構図に焦点を当てた報道が多いように思いますが、
私はもっと本質的な問題として、
「ハード一流、ソフト三流」という
中国の現状が露呈してしまったのではないか、
という観点からこの事故を見ました。
中国では経済成長を急ぐあまり、
建物や機械などのハードがどんどん進化していく速度に、
人間というソフトが全く追いついていないのです。
そこで今、中国で注目されているのが、
1964年の開業以来、47年間にわたって
1度も列車乗車中の乗客の死亡事故を起こしていない
日本の新幹線です。
中国紙・新民周刊は、
日本の新幹線の制御システムには
3重の安全設定がなされており、
メインシステムに停止やエラーが生じた場合には
他の2つのシステムが補う仕組みになっていること、
東京にある新幹線総合指令所に加えて、
1999年に大阪に第2総合指令所が新たに設けられ、
東京にある総合指令所が自然災害などによって
その機能を失うことがあったとしても、
新幹線が止まることなく安全に運行できるように
なっていることを紹介しました。
また、新幹線は国土交通省による規定に基づき、
検査すべき時期と車両の部分が明確に決まっており、
毎回の検査には1,000項目もの検査が
義務付けられていることも報じました。
同紙は「来る日も来る日も繰り返し行われる複雑な検査は、
まるで退屈で意味のないもののように思えるかもしれないが、
こうした検査によって
ないがしろにされがちな小さな誤差が発見され、
重大な問題を招く隠れた危険を避けることができる」
と評価しています。
こうした日本人の「完璧主義」や「生真面目さ」という
特長が生かされた地道な取り組みは、
普段はなかなか効果として見えてくることはありません。
しかし、その一見無意味に見える日々の取り組みが、
今回の中国の高速鉄道事故のような
大惨事を避けるために役立っているのです。
新幹線車両というハードは、
一度買って分解してみればマネができますが、
新幹線運行システムというソフトは、
一朝一夕にマネをすることができません。
特に「完璧主義」や「生真面目さ」よりも、
「決断の速さ」や「柔軟性」を重視する
中国の人たちにとっては、
一見全く無駄に見える何重ものバックアップシステムや、
毎日繰り返される単調な検査の仕事は
マネができない、というか、
マネをする気も起こらないのではないかと思います。
日本は「完璧主義」や「生真面目さ」という、
中国を始めとする外国の人たちがマネのできない、
または、マネをする気も起こらない、
日本人特有の性質を活かし、
外国に新幹線車両のようなハードを売るのではなくて、
新幹線運行システムや運行請負のようなソフトを売っていく。
こうしたことが、今後、日本が活路を開いていくための
1つのヒントになるのではないかと思いました。
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