第1288回
食材が少なかった中国北部の生活の知恵
世界四大料理の一つに数えられる中国料理。
しかし、ここで言う「中国料理」とは
広東料理など主に昔から食材が豊富だった
中国南部の料理のことであり、
北京を始めとする中国北部の料理は
その対象にはなっていないような気がします。
確かに、北京の伝統料理・老北京菜(らおべいじんつぁい)の
レストランに行って名物料理を訊くと、
緑豆のおからを羊の油で炒めた「麻豆腐(まーどうふ)」とか、
白菜をからしであえた「芥茉白菜(じえもーばいつぁい)」とか、
なんとなく貧乏臭い料理を薦められます。
昔の北京は食材が少なく、
貧しい食生活を強いられていたことが偲ばれます。
しかし、こうした貧乏臭い料理がまずいか、
というと決してそんなことはなく、
むしろ非常においしいものが多いです。
北京在住のライター・勝又あや子さんが書かれた
「北京で「満福」−普通がおいしい。本場の中華!」(東洋書店)
という老北京のいわゆる「B級グルメ」を
紹介した本があるのですが、この本を読むと、
昔の北京の人たちが限られた食材を使って、
いかにおいしい料理を作るか、ということに
苦心していたことが良くわかります。
それは北京だけではなく、
同じ中国北部の山西省の麺にも同じことが言えます。
山西省は中国の麺のメッカです。
練った小麦粉の生地を腕に乗せて、
刀で削って煮立った鍋の中に入れる
「刀削面(だおしゃおみぃえん)」、
1つの大きな生地から長い長い
1本の麺を引っ張り出してどんどん鍋に入れていく
「一根面(いーげんみぃえん)」、
小さくちぎった生地を親指で押しつぶして
猫の耳のような形にする
「猫耳朶(まおあーるどお)」などなど、
考え得るありとあらゆる形の麺が存在します。
小麦というありふれた食材を、
いかに楽しくおいしく食べるか、
という工夫が感じられます。
また、中国の国酒・白酒に関してもそれは言えます。
中国南部に属する四川省の「五粮液(うーりゃんいえ)」は、
中国を代表する白酒ですが、
コーリャン、小麦、米、もち米、トウモロコシ、と
文字通り5種類もの穀物をふんだんに使っているのですから、
おいしくて当たり前です。
一方の中国北部の白酒は、コーリャンだけ、とか、
コーリャンと小麦だけ、など少ない種類の原料で
いかにおいしい白酒を作るか、
ということに苦心の跡が見られます。
昔から食材が少なかったために、
中国を代表するような料理やお酒が育たなかった中国北部。
しかし、限られた食材で
いかに楽しくおいしく飲んだり食べたりするか、
という生活の知恵に関しては、条件が厳しかった分、
中国南部よりも優れている部分があるのではないか、
と私は思います。
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