第1148回
GDP競争から「富国有徳」へ

前回、中国の人たちの意識が、
「Japan bashing」から「Japan passing」、
そして「Japan nothing」に移りつつある、
というお話をしましたが、
こうしたことは中国の人たちの意識の中だけでなく、
実際の貿易関係の中でも起き始めています。
貿易の世界では日本の対中依存度はますます高まっていますが、
逆に、中国の対日依存度はどんどん低下しているのです。

日本の貿易に占める中国の割合は年々上昇しており、
2007年には中国がアメリカを抜いて
日本の最大の貿易相手国となりました。

一方の中国にとっての日本は、
長年最大の貿易相手国でしたが、
2004年以降、アメリカや
ヨーロッパ連合(EU)に抜かれて3位に後退、
近く、東南アジア諸国連合(ASEAN)にも
抜かれる見通しです。

そんな中、中国は将来的なアジア経済圏での盟主の座を
確実なものとするための布石を打ち始めています。

今年初め、中国とASEANの自由貿易協定(FTA)が発効、
これにより域内人口19億人の巨大自由貿易圏が誕生しました。
中国は現在、日本、韓国ともFTAを締結するべく、
研究を本格化させています。

そして、中国は更に、
東南アジアとの人民元の貿易決済を試験的に解禁するなど、
人民元の国際通貨化に向けた取り組みも推進しています。
国際金融の専門家によれば、中国は将来的には、
中国を中心に日韓ASEANと自由貿易圏を形成し、
人民元をドル、ユーロに対抗するアジアの決済通貨に育てたい、
と考えているようです。

国際社会での発言力はGDPの大きさに左右されるものですが、
現在の情勢から判断すると「日本がGDPで中国を抜き返して、
アジア経済圏の主導権を取り戻す」
というシナリオにはかなり無理があります。
となると、日本はGDPの大きさに代わる拠り所を磨いて、
アジアの国々から一目置かれる存在で
あり続ける必要があります。

そんな中、私は先日、
「富国有徳論」(中公文庫)を書かれた
静岡県の川勝平太知事が北京に来られた際に、
知事ご本人から直々にマンツーマンで
「富国有徳」について教えて頂くという
幸運に恵まれました。
「富国有徳」とは、かの勝海舟が最も畏怖したとされる
幕末の先覚者・横井小楠が唱えた概念で、
ものの豊かさと心の豊かさの両方を兼ね備えた
理想の国を目指す考え方です。

GDPの大きさという力で屈服させるのではなく、
豊かさと徳の高さで世界の国々から尊敬され、
自然と賛同者が集まってくる。
「富国有徳」は今後日本が世界の中で
存在感を保っていくために目指すべき、
理想の姿なのではないか。
川勝知事に「富国有徳論」のレクチャーをして頂いて、
私はそんな風に思いました。


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2010年2月17日(水)

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