第1088回
「私を刑務所に入れてください!」

今年に入ってから広東省深セン経由で香港に
密入境しようとするベトナム人が急増しているそうです。
彼らの目的はただ1つ、
「香港の刑務所に入ること」です。

彼らの多くは薬物使用歴があるエイズ患者。
病院に行くカネもなく、
そのカネを稼ぐための仕事にもありつけず、
ベトナムにいたままでは座して死を待つのみの人たちです。

こうした人たちに目を付けたのが
密入境を手配するブローカーです。
彼らに「香港の刑務所に入れば医療費がタダで、
仕事もあって毎月数百香港ドルもらえるよ」
と甘い言葉で誘い、1人5000元(70,000円)の約束で
香港までの密入境を手配してやるのだそうです。

彼らは深センから車の底部などに隠れて
香港への密入境を図ります。
上手く香港に入ることができれば、
後は警察官を見つけて目の前で違法行為を働くだけ。
ブローカーは「運良く」捕まった彼らが
刑務所内で働いて毎月受け取る賃金の一部を
密入境手配の代金として回収しますので、
取りっぱぐれる心配もないのだそうです。

香港は1997年の中国への返還後も1国2制度のため、
イギリス統治時代の人権尊重の精神が受け継がれており、
刑務所もみんなが入りたがる
「天国」のようなところであるようです。
しかし、香港まで到達できず
深センで捕まってしまった人たちは
「地獄」を見ることになるようです。

先日、本件とは別件の麻薬使用の罪で
深セン市当局に拘留されていた
香港人約100人が釈放されました。
釈放された30歳代の女性によれば、
歯ブラシとタオルは10人で共用、
15日間替えのパンツなし。
昼間は9時間にわたって木製の寝台の上で
黙って座り続けさせられ、夜は2分間で体を洗い、
食事は豚のえさ並みだったとのことです。

この女性は「麻薬を使ったのは確かに悪いことだけれど、
人権を剥奪するような処罰は許されないはず!」
と憤慨しているようですが、
過去何度か拘留された経験のある
中国本土出身の中国人によれば、
今回香港人が受けた待遇はかなり良い方だとのことです。

公安部が管理する拘置所に比べて、
司法部の管轄下にあり制度が整っている中国の刑務所は
比較的扱いが良いと言われています。
しかし、中国において「犯罪者の人権に無頓着な
この国の刑務所に入れられれば何をされるかわからない」
という恐怖心が、
犯罪の抑止に役立っているのもまた事実だと思います。

犯罪者にももちろん人権はあります。
しかし、麻薬中毒者や失業者が入りたがる
「天国」のような刑務所を作ることは、
1つ間違えば犯罪の促進に
つながってしまう可能性もあります。

実際日本でも、生活苦からわざと犯罪を犯して
3食確実に食べられる刑務所に入る人もいると聞きます。

刑務所の待遇を上げて犯罪者の人権を守ることより、
犯罪を犯していない壁の外の人たちが、
「私を刑務所に入れてください!」と思わないような
まともな世の中を作ることの方が、
優先度合いは高いのではないか、と私は思います。


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2009年9月30日(水)

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