第1068回
中国政府の「米百俵」政策

今回、希望小学校の先生方とお話をしてビックリしたのは、
この希望小学校の子どもたちの半分以上が
大学まで進学するであろう、ということです。

この希望小学校に通う子どもたちの親は100%農民です。
農閑期には近くにある製鉄会社・承徳鋼鉄に
臨時工として働きに行く人もいますが、
元々、貧困地域に建設される
希望小学校があるようなところですので、
彼らの収入では普通ならば大学はおろか、
高校に行かせることもできません。

学校の周りは貧しい農村

しかし、この希望小学校がある
灤平県(るあんぴんしぇん)は教育に力を入れており、
義務教育である小中学校は当然ですが、
高校も学費を無料にしているのだそうです。
そして、高校を卒業した生徒は
中国各地の大学に進学するのですが、
今の中国は奨学金制度が非常に充実してきており、
家が貧しくても奨学金を申請すればほとんどの人が
学費を払うことなく大学に進学できるのだそうです。

このため、この希望小学校の生徒の中学進学率は100%、
中学校の高校進学率も90%となっています。
そして灤平県の高校の大学進学率は60%とのことですので、
単純に計算すれば、希望小学校を卒業した生徒が100人いたら、
54人が大学まで進学する、ということです。

私、以前、NHKスペシャルで、
娘の大学進学費用を捻出するために、
唯一の収入源である土地を売り払ってしまい、
食うや食わずで死にそうになっている
中国の農民夫婦のレポートを見たことがあります。

以前の中国では、農民は自分の子どもを
高校や大学に進学させるお金がありませんので
子どもは親の跡を継いで農民になるしかなく、
この夫婦のように命を掛けて一発逆転の賭けをしなければ、
子々孫々まで農民という「カースト」から
抜け出せない状態が続いていました。
しかし、今の中国では親がどんなに貧乏な農民でも、
子どもにやる気と能力さえあれば、
大学を出て高給取りのホワイトカラーになる道が
開かれているのです。

希望小学校の先生方によれば、
この中国政府の教育重視の政策は2007年に始まったばかりで、
まだ全国に普及しているわけではないとのことです。
しかし、大学進学率という点から見れば
灤平県は全国平均ぐらいであり、
同県と同じような農村部でも同県よりももっと
大学進学率の高いところもたくさんあるようです。

今後、中国は産業の高付加価値化を
進めていかなくてはなりません。
そのためには、都市部だけでなく、
貧しいからという理由だけで今まで農村部に埋もれていた
優秀な子どもたちに高等教育の機会を与えて、
中国の将来を担う人材の厚みを増していかなければならない、
ということに中国政府は気付いたのでしょう。

中国の将来を担う子どもたち

長岡藩大参事・小林虎三郎は
「百俵の米も食らえばたちまちなくなるが、
教育にあてれば明日の一万俵、百万俵となる」と言って、
なけなしの米百俵を売って学校を建てました。

中国政府がこの「米百俵」の逸話を
知っているかはわかりませんが、
希望小学校の子どもたちが社会に出る10年後、
教育重視政策を続けて人材の幅が厚くなった中国は
いったいどんな国になっているのでしょうか。


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2009年8月14日(金)

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