第1060回
ウイグル暴動に見る中国の内政重視政策
今月初め、新疆ウイグル自治区で暴動が発生し、
武装警察が武力で暴動を鎮圧、
数百人の死者が出たと言われています。
事の発端は広東省のおもちゃ工場で
デマを信じた漢族の従業員がウイグル族の従業員を襲い、
ウイグル族2人が死亡した事件なのですが、
この事件は単なる引き金であり、
長期間にわたって蓄積されてきた根深い民族間の憎しみが
この事件によって一気に爆発した、
と見るのが妥当なのではないでしょうか。
こうした状況を目の当たりにすると、
中国政府が日本という共通の敵を作って、
56もの民族が共存している中国国内を
まとめ上げようとする政策を取ったのも
理解できなくはありません。
中国政府にとっては、外交よりも内政の方が
ずっと優先順位が高いのです。
この暴動の発生を受けて、
ラクイラ・サミット(主要国首脳会議)に
出席する予定だった胡錦濤国家主席は、
イタリア訪問を打ち切って急遽帰国しました。
中国国内では「国家の一大事の発生に当たっては、
指導者の陣頭指揮が必要」と
評価する声が大勢を占めています。
一方のサミットは、地球温暖化対策でも
ドーハ・ラウンド(新多角的貿易交渉)でも
新興国の雄・中国のトップが欠席したこともあって
話の目立った進展は見られず、
図らずも中国の存在感の大きさと、
主要8カ国(G8)の相対的な影響力の低下を
改めて世界に示すことになってしまいました。
また、胡錦濤国家主席が急遽帰国した本当の理由は、
暴動鎮圧の陣頭指揮ではなく、
暴動に絡む権力闘争なのではないか、という話もあります。
香港紙・リンゴ日報は、共産党中央と政府指導部で
治安問題を担当する党中央政法委員会の
周永康書記(党政治局常務委員)と孟建柱公安相は
いずれも江沢民前国家主席に近い人物であることを指摘、
彼らが暴動対策として警察や武装警察を
大量に動員して武力を誇示することによって、
最近の公安部高官らの汚職摘発で
劣勢に立っていた江沢民派が
政治的影響力の回復を狙っているのではないかと見ています。
同紙は「国外にいても軍や警察の指揮はできる。
しかし、派閥間の駆け引きをするには
国外にいては都合が悪いので、
胡主席は帰国せざるを得なかったのではないか」
と分析しています。
この話が本当だとすると、
中国共産党内部のくだらない権力闘争のせいで、
世界的な問題である地球温暖化対策や
自由貿易の交渉が進展しなかったことになります。
どちらにしても、たぶん世界は今後も
世界への影響力をどんどん増していくにも関わらず、
外交より内政をはるかに重視する中国の内政重視政策に
振り回されることになるのではないか、と私は思います。
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