| 第1019回「危機の機は機会の機」
 「危機という単語は2つの漢字から成り立っています。危機の危は危険の危。しかし、危機の機は機会の機です。
 我々はこの危機を機会と捉え、景気が良いときには
 解決できなかった問題を解決していきましょう」
 世界的な金融危機で中国の景気が減速し始めてから約半年、中国政府のエラい人たちがこう言っているのを
 どれだけ見たり聞いたりしたかわかりません。
 中国は現在、財政、金融、税制など、考え得る全ての手段を使って、
 この危機を乗り越えようとしています。
 このため、先月の全人代で承認された2009年度予算も、
 建国以来最大となる9500億元(13兆8000億円)の
 財政赤字を見込んでいます。
 しかし、その一方でこの危機を利用して、景気が良いときには解決できなかった問題を
 解決しようという動きも見られます。
 1つは低付加価値品の輸出に頼った経済構造の抜本的な改革です。
 今回の金融危機で中国の中で最も大きな打撃を受けたのは、低付加価値品の輸出を主な産業としていた広東省です。
 広東省では多くの工場の経営が立ち行かなくなり、
 内陸から出稼ぎに来ていた多くの農民工が職を失いました。
 しかし、広東省のトップ・汪洋(わんやん)党委書記は、「倒産するのは全て生産力が立ち遅れた企業なので、
 淘汰されて当然だ」として倒産しそうな企業の救済をせず、
 「騰籠換鳥(たんろんほあんにゃお、
 籠の中の鳥を入れ替える)」という政策を推進しました。
 要は「低付加価値産業という鳥を広東省という籠から出し、
 新たに高付加価値産業という鳥を入れる」ということです。
 この政策は企業の倒産や失業者を増加させますので、省内外で異論が出ていましたが、
 先日、胡錦涛国家主席が汪洋氏の政策に対し支持を表明し、
 広東省は金融危機という機会を利用して
 経済構造の抜本的な改革に乗り出しました。
 景気が良い時にはどんな企業でも儲かりますので、低付加価値品を生産する企業でも生き残れてしまいます。
 しかし、景気が悪くなれば競争力のない企業は
 放っておけば勝手につぶれていきますので、
 確かに不景気は経済構造改革には絶好の機会です。
 日本政府がこんな政策を打ち出したら「弱者である中小企業を見殺しにした」ということで、
 野党が鬼の首を取ったように大騒ぎをしそうです。
 しかし、一党独裁の中国では
 短期的には痛みを伴う施策であっても、
 政府は長期的な視点から経済構造の改革を行えるのです。
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